「哲が句」を語る ことばの誕生

前回の記事までで、人間が人間になるための宇宙史上の3つの「革命」について、一通りご説明しました。
今回は3革命を通して、もう少しご説明します。
なお、今回の記事をお読みになる方は、それぞれの「革命」についてご説明した記事をお読みいただければ幸いです。
「セックス革命」 他者の誕生|ego-saito|note
「哲が句」を語る 「はじまり」について② はじまりの誕生|ego-saito|note
「哲が句」を語る 愛の革命(改題)|ego-saito|note


何かを考えるときには、それがどのように生まれてきたものなのかをいつも考える。
「他者」「生命」「自分」「はじまり」「死」「人々」「問い」…
自分とは何か、死とは何か、そのような問いを問うとき、まずそれが本当にあるものなのか、あるとしたらどのように生まれてきたものなのか、と考える。たいていそのようにしている。
その結果、見えてきた「3革命」、それを簡単に振り返ろう。

囲われた形式(構造)を持つ(ように見える)細胞(=生物)ができて、それがやがて現在の我々人間にまでつながっていることからすると、いわゆる「生命の誕生」と言われる事件が、「人間」につながる、“ことの発端”のように見える。それが間違いだとする根拠は持っていない。
細胞は膜に囲われ内部に秩序ある構造を持ち、分裂により増殖する。そのようにして、生物というありかたを維持し続けてきた。変化して多様になりつつも、膜の内と外という構図をすでに成立させていたように見える。その限りで、すでに「個物」が成立していたとみることはできるかもしれない。

だが、私は人間という営みが「関係を紡ぐこと」にあるという視点から見ている。(「哲が句」を語る 「はじまり」について③ 人間は素粒子か|ego-saito|note参照)
その視点で見ると、生物という「個物」が、ただあるだけでは何事も起こらない。鉄に錆が広がっていくような物質の増殖と大きく異なることはない。
生物同士が相手を「他者」として関わらざるを得なくなるに及んで初めて、新たな事態が起こったとみなせると考える。そのとき「個物」は、他者と関係を紡ぎうるものとして、次元の異なる新たな意味を持つことになる。以上のことが「セックス革命 他者の誕生」で起こった。

生物は、生殖細胞を接合させるために働く用務装置として、体細胞の多細胞構造体を「おでき」のように作った(前掲「はじまりの誕生」参照)。やがて「おでき」は、用務終了後に自然消滅する仕組みを獲得した。
こうして「生命」は、「おわり」としての死の能力を持ち、そのとき「はじまり」が誕生した。「自分革命 はじまりの誕生」である。
その結果、自らが「始まって終わるもの」である人間は、世界を「始まって終わる」という形式でとらえようとすることになる。

「生命」は、本来、生殖のための用務装置であるから、生殖を目的とした生活設計が施されていて不思議はない。生殖用務を終えてほどなく死ぬ生き物も少なくない。
生殖をより確実に行わせるためのインセンティブとして、セックスに快楽が伴う方向へ進化したのかもしれない。
そのセックスの快を生殖以外の用途に利用した例がボノボであり、ヒトはその方向へ大きく飛躍した。
ヒトは脱毛によって、全身で他者を直に感じるようになった。
「脱毛革命 愛の誕生」で起こったことが、我々人間に直接つながっている。

脱毛で生まれた愛が、言葉の誕生にも深く関与していると思われる。
言葉の生まれを考える場合、発信者の進化と発声そのもの(言葉)に注目することが多いように感じる。
だがそれに劣らず、言葉を受け止める受け手側の事情が重要だったのではないかと考えている。
ことに、受け手の心の用意が重要だった。
高等動物ではすでに、他者への関心は高くなっている。自己に関わる他者が何をしようとしているのか、何を考えているのか、そのような他者の気持ちを窺う様子は多くの動物にみられる。
それが、素肌で直に触れ合う体験を持ったヒトにおいては、その傾向が飛躍した。他者への関心が飛躍的に強くなった。ヒトは他者の顔色を窺う。
そのような心の準備ができたことが、言葉の誕生にとっては極めて大きな働きを果たしたに違いない。

ところで、以上の3革命は、生殖あるいはセックスを軸に進んできた。
第三の革命「脱毛革命」では素肌が大きな意味を持った。
すなわち、
素肌は第二の性器である

それに伴って生まれた言葉はその延長線上にある。
すなわち、
言葉は第三の性器である

言葉が誕生に至るまでには3革命が必要だった。
共有すべき・伝えるべき「他者」(セックス革命)
始まって終わるという文節構造(自分革命)
そして、他者に愛を感じる受け手の心の準備(脱毛革命)

なお、言葉の誕生については、いずれ別の角度から記事を書きたいと考えている。

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