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「忘れられたサンタクロース」noteアドベントカレンダー2018 12月18日

noteアドベントカレンダー12月18日担当の青木詠一です。こんな素敵な企画を作ってくださいましたカールさんに感謝いたします。クリスマスツリーに飾るみたいに、とてもワクワクしながら書きました。

◇クリスマスに、こんな小さなエッセイを贈ります。あの頃の閉鎖してしまった店での少し悲しいクリスマスのお話しですが、それでも優しい思い出です。あなたの心がほんの少しでも、あたたかくなってくだされば幸いです。

◇エッセイの後に、小さな詩とささやかなプレゼントを用意しています!どうぞ最後までごゆっくりと!


「忘れられたサンタクロース」  青木詠一

あれは経営不振から店が閉鎖してしまった後の、残りの仕事をしていたときのことだった。残りの仕事と言っても、ただ、捨ててしまうことくらいしかしなくて、店に飾ってあるものとか、日頃使っていた机や椅子や、鉛筆立てひとつにしても、すべて捨てることになる。

そこにあるのが当たり前だったものを、ただ、捨てるという行為は、本当に身を切るような悲しみしか残らなかった。もう、何も必要とされない。明日にはもうそこには何も存在しない。その作業の中、実際に涙を流しながら捨てるパートさんなんかもいて、私は何も言えなくて、ただ、黙って捨てるしかなかった。

あんなに何かに押しつぶされそうな空気は、その場にいた者にしか、わからないのかもしれない。誰かが泣いてる中で、すべてを終わらせる仕事をしている。あんな思いは、もう二度としたくはない。

ちょうどそんな時だったのだと思う。売場の倉庫の奥から出てきたのは。それは小さな子供の背丈くらいのクリスマスツリーだった。

「どうする?ちょっと汚いしこれも捨てる?」って誰かが言った。「誰もいらないなら僕がもらおうかな」と私は何気なくそう言った。

今思えば、別に捨ててもよかったのだけど、なんとなくそれは捨ててはいけないもののような気がした。私はそれを自宅に持ち帰ったのだった。

それから、いろんな忙しさから、そのクリスマスツリーのことを私はずっと忘れていた。自宅の押入れの奥でホコリをかぶっている状態だった。

ある年のクリスマスに、まーちゃん(9才の娘)が偶然にも見つけてくれた。それでようやく数年ぶりに、その赤い箱を開けることとなった。

「サンタさんの片足がないねー」とまーちゃんがポツリと寂しそうに言った。確かに飾り用のミニサンタの片足が、取れてなくなってしまっている。

そういえばあの頃、閉店セールの最後のクリスマスに、売場でこのツリーを飾っていたとき、若いアルバイトのSさんが何かの拍子に、このミニサンタを床に落としてしまった。それでサンタの片足が無残にも、ポーンとどこかに飛んでしまったのだった。

あのとき彼女は、閉店前の寂しさもあってか「あぁ、ゴメンね」と本当に申し訳なさそうに、少し涙ぐみながらも片足のサンタに謝っていたけど、結局、その片足のないサンタだけが飾れなくなって、ずっと暗い箱の中にしまっておいたんだ。

・・・なんてこと思い出す。

「今度は明かりがつかないねー」と、また、まーちゃんが残念そうに言っている。おかしいな?確かにスイッチを入れても、小さな豆球の半分しか点滅しない。おかげでちょっと華やかさに欠けている。

あの頃、売場ではちゃんとすべて点滅していたはずなのにな。まるで童謡の”大きな古時計”のように、何かが終わって壊れたみたいに。

そう思ううちに、あの頃のにぎやかだったクリスマスの売場が、みんなの笑顔が、この心に蘇ってくる。あの頃を思い出すなんて、本当に久しぶりのことで、あの時の場面が私の中で巻き戻され再生されてゆく。

もう終わるのに、それはなんて幸せな光景なのだろう。

いつしか、まーちゃんと私とで飾った我家のクリスマスツリーが完成した。明かりもついて華やかになった。

まーちゃんが最後に、そのてっぺんに小さな物を飾っていた。
「ココにおいてあげようね」って
まーちゃんが微笑みながら話してる。

なんだろう?と思ったら
それはずっと忘れられていた、片足のないサンタクロース。

てっぺんの枝と枝の間にちょこんと乗せて
そのサンタの顔だけが、うれしそうに笑っていた。

その光景にあの頃が重なって、私は涙がこぼれそうになった。

ありがとう・・・。
君とサンタにメリークリスマス。

エッセイを読んで下さって感謝です。終わりにこんな詩を贈ります。いつも、誰も忘れないように。これはきっと、世界中のみんなの願いと祈りだと思います。


「クリスマス・プレゼント」


人はみんな優しいから
だから ひとりきりで泣いて
そして みんなの前で笑って。

人が贈り物をするのは
いつしか忘れないために。

その人の本当の笑顔を。

君にメリークリスマス。

最後までありがとうございます。みんなに素敵なクリスマスが訪れますように!本当の終わりに小さなプレゼントがあります!

*うちの奥さんとまーちゃんが作った絵本の「1えんくん」です。顔の「1」がさりげなくスキを催促してるみたいです。(笑) そして読んでくださった人の心にも、スキを贈っています。

*お時間のある方はこちらの絵本「一えんくんのたび」もどうぞ。

素人の手作りですが、私からの本当にささやかなクリスマス・プレゼントです。よろしかったら、このイラスト画像(上のパネル付き大サイズ・下の小サイズ)をご自由にお使いくださいませ。スキが増えるかも????

◇◇◇明日(12月19日)の担当はもちだみわさんです。イラストがとても素敵で私も楽しみにしています。よろしくお願いします!それでは、引き続きnoteアドベントカレンダー2018を楽しみましょう! 青木詠一

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一