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ひとり暮らしをしていた頃。

私はひとり暮らしが長かった。

独身時代に約5年間、結婚してからの単身赴任期間は約7年間。合計でだいたい12年間、ひとりで生活をしていた。もともとまめな性格で、ほどほどにキレイ好きだったので、割とひとりで何でもできたし、あまり生活に困ることはなかった。(自分で言う。)

そういえば独身だった頃、付き合い始めた今の奥さんを、はじめて部屋に連れて来たとき、ひとり暮らしの男性にしては、部屋がとてもキレイだったので「絶対に彼女がいる!」と思ったらしい。でもこのヒト、あんまりしゃべんないし奥手そうだから、そんなことないか、とも思ったらしい。(私はどっちに喜べばいいんだ!)

まぁ、それはいいとして。

ひとり暮らしをしていた頃。今思うとやっぱり寂しかったんだろうなぁて思う。特にひどかったのが、やはり、単身赴任中だった。

まず、仕事を終えて夜遅くに家に帰って、部屋に入ると、真っ先にテレビのリモコンのスイッチを押す。とにかく静かな部屋が耐えられないのだ。今はニュース以外に、あまりテレビは見なくなったけど、あの頃はよくテレビを見ていたなぁ。毎日音楽も聴いて、休みの日にはレンタルビデオを借りて、ずっと見ていた。本好きなのにあの頃は、すっかり読む量が少なくなっていた。

家族には月に一度しか会えなかった。まだ、それはいいほうで、仕事が忙しいとふた月に一度しか帰れないなんてこともざらにあった。帰っても、一泊して次の日には帰らなければならなかった。

だから単身赴任中に、不思議な感覚に、一瞬、襲われることがあった。

「あれ?僕は独身だっけ?」なんて。

ちょっと末期症状だったなぁ。

そんな一人暮らしでも、唯一良かったことはやはり、「自由」だろうなぁ。悲しい映画やドラマや歌を聞いたり見たりしたときに、思いっ切りひとりで泣いていた。本当にボロボロと泣いていた。

だって、ひとりだ。誰にも見られていない自由があった。泣くと本当にすっきりする。確かストレスを発散する作用があるとかで。今じゃ、思いっ切り泣けないからな。ちょっと寂しい気もするけれども、泣くほどの大きな感情の起伏も少なくなった。いいことなのか悪いことなのか・・・。

もう、ひとり暮らしをする心配はなさそうだ。今は夫婦二人で程よい自由を満喫している。それぞれに好きなことをして、必要な時は協力し合って、てな感じで。今の私たち二人暮らしの夫婦の関係は、くっつきすぎず離れすぎずがちょうどいい。

そういえば、夫婦二人だけで生活するようになって困ったことがあった。

私はひとり暮らしをしていたときに、トイレに入ってもドアはいつも半開きにしていた。ひとりだからトイレのドアを閉める必要がないじゃん、なんて思っていたからだ。(逆にひとりしかいないのに、トイレのドアを閉めてカギをかけるほうが、よっぽど怖いよ。他に誰かいるの?って感じで。)

その癖がなかなか直らなくて、最初の頃、いっつも奥さんに叱られた。

「もう!ちゃんと閉めてよね!」って、バタン!とそのたび力強く閉められたものだ。その度、あーあ、あの頃のキレイ好きな私のイメージは、もう、ないんだろうなぁなんて少し残念に思う。

今じゃちゃんと、トイレのドアを閉めてカギをカチッとかける。

でも、その度に私は思う。

”あ、そうか。もう、ひとりじゃないんだ”って。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一