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円山珈琲俱楽部で江口節先生の詩の朗読会

 4月16日、大阪は南森町にある円山珈琲俱楽部という喫茶店で、江口節先生の詩の朗読会があった。そこでは毎月詩人を招いて朗読会を行っている。今回で530回を超えているという、長期間続いているイベントである。
 先生は編集工房ノアから出版された詩集「水差しの水」から詩を朗読し、一つ一つの詩のついて、詩の背景となった阪神大震災であったり、最近のウクライナ戦争であったりするコンセプトを話された。
 どの詩も密度が濃く、スケールも大きいが、詩集「水差しの水」から印象的な冒頭の詩を以下に引用する。

水差しの水 (江口節)

展示室の
壁の裏側に回ると そこも
器の絵だった
どの部屋にも 水差し 壺 花瓶 缶 ボウル
並べ方が変わり
光と影が変わり
一日であって一年であって一生のようでもあった
何も変わらないが
何かが変わるには十分な時間
うっすら 埃が積もり
新しい器が加わり
使い慣れたものが消え

若い妻の一日は
たっぷり花を活けた花瓶に
水差しで水を足す朝から 始まった
水差しではなく コップだったかも知れない
随分と昔に見た映画だ
幼い二人の子を残して 妻の水死体が池に浮かんだ後
子どもの世話をするためにやってきた新しい妻も
一日の初め 花瓶に水差しで水を足す
死の説明はしない
日々の器があり
暮らしの振る舞いがあり
水差しの水を花瓶に注ぐ歳月を描いて
タイトルは『幸福(しあわせ)』と付けられた

器は そこにある
テーブルの縁はすぐ向こう
壁にくっきりと水平線を引きながら
奥行きもなく 空であり地であり海であり
器のすきまに器のまぼろし
生きる抽象に時間が流れこみ
見えぬものを描きこむことに精魂をこめて
画家は
光と影の永遠を筆先に集めた
              ※画家 モランディ

江口節詩集「水差しの水」編集工房ノア

 この詩は今も多くの方が書かれる生活詩の頂点と言っていいほどの作品だ。生活詩でも極めればこういう詩が書けるということを知らせてくれる佳篇だ。
 この朗読会で知った驚くべきことは、北摂 詩の会は、関西で島田陽子から受け継がれる歴史ある詩の会だということと、江口節先生は島田先生と同じ時期に詩の会であったり、詩誌を共に編集したりされていた会員であるということだ。島田陽子先生の詩で有名なのは、70年大阪万博のテーマソング「世界の国からこんにちは」である。
 そういう歴史ある詩の会で僕は江口先生の詩を受け継ぐべきか、或いは自分が四年間かけて作りあげてきた詩を完成させるべきか、岐路に立たされているような気がした。しかし、自宅に帰って考えてみて、自分が作り上げてきた詩を完成させようと決心した。
 こうも考えられる。江口節先生の完成された詩の中には、いくつも盗めるテクニックがあるだろうということだ。もっと柔軟に考えて、先生が僕に言われたように、守るところは守ってもいいでも、取り入れれるところは取り入れて、柔軟にやっていこうと考えている。
 来週、北摂 詩の会の合評会がある。
 ちなみに円山珈琲俱楽部のアメリカン・コーヒーはまことに美味であった。

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