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思い出のアメリカン・フード(8: クリスマスとみかん)

第8章 アメリカのクリスマスと籠盛りみかん

 大学院生時代、米国ワシントン州の友人宅にクリスマス休暇を過ごしに行った時のこと。友人がスーパーマーケットで、「クリスマスにはこれが欠かせないの」と言いながら、みかんを箱買いした。それも小さい箱ではなく、お歳暮で贈られるようなサイズ。箱の側面には富士山のイラストがあり、「静岡産」と印刷されていた。

 友人は父方がドイツ系、母方がアイルランド系で、日本との血縁関係はない。続いて彼女の知人宅を訪問した。彼女同様、白人の家庭で、ここでもキッチンの籠にみかんが山盛りになっていた。

 どういうことなのだろうと興味をかき立てられた。この地域は太平洋に面し、日本からの移民を多く受け入れた歴史がある。日系スーパーもあり、日本の食べ物を手に入れるのも難しくない。日本人の食習慣が他の住人にも受け入れられたのかもしれない、と当時は考えた。

 それ以上追及することもなく年月が過ぎ、札幌で就職してさらに時間が経った、2018年2月のこと。
 さっぽろ雪まつりの会場に、スウェーデン交流センターのブースがあった。1980年代、近郊の当別町に「スウェーデンヒルズ」という住宅地が造られたのと並行して設立され、スウェーデンと北海道の交流の拠点になっている。

 ブースに入ってセンターのニューズレター「ビョルク(白樺)」をもらってきた。2018年1月1日発行、第137号とある。

 (現在、センターのホームページからダウンロードできるようになっているので、原文を参照したい方はそちらから。コロナ問題のための一時的対応のようです。http://swedishcenter.or.jp/quarterly%e3%80%80magazine/ )

その中のクリスマス特集に、スウェーデンのクリスマス時期にはクレメンタイン(小ぶりな柑橘類の一種)をたくさん買って食べる、という記述を発見した。書いているのはソフィア・マルムさんというスウェーデン人の女性。(noteでも発信していらっしゃいます。)ここで、思い当たることがあった。

 ワシントン州には、スウェーデンからの移民もたくさん入っている。もしこの習慣がスウェーデンからアメリカに持ち込まれたとしたら、どうだろうか。
 クレメンタインは、スペインなどから輸入されるものが大半だ。スウェーデンの人たちが、北米太平洋岸で故郷のクリスマスを再現しようとした時、クレメンタインよりも温州みかんの方が入手しやすかったのではないだろうか?
 それが、スウェーデン系以外の白人住民にも広がって地域の慣習となった可能性があるのではないだろうか。

 さらに想像してみると、スウェーデン以外のヨーロッパの国々にも、もしかすると同様の習慣があり、移住した先の事情に合わせて、入手しやすい種類の柑橘類でクリスマスを過ごしているのかもしれない。留学先の中西部シカゴのスーパーでは、クレメンタインはあったが富士山マークのみかん箱は置いていなかった。ここも、ある時期には、ストックホルムの次にスウェーデン人が集まっているとされた都市だ。

 関連の情報をお持ちの方がいたら、教えていただければ幸いです。

(2018年12月7日北海道新聞夕刊掲載のコラムを加筆修正しました。)

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