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短編小説『私の爪は苦い』

 わたしは電車に駆け込んだ。外よりずっと温かい車内は、混んでいるわけではないが座席はすべて埋まっている。わたしは鼻からため息を漏らすと仕方なく吊り革を握り、もう一度ため息をついた。

 わたしの吊り革を掴んだ手が真っ赤だったので、手袋を家に忘れたことを思い出したのである。

 視線を下げると目の前の座席に寝ている女がいる。彼女はすっかり頭を垂らし、後頭部を見せているみたいだった。無防備な寝姿には似合わず、手は膝の上にきちんと重なっていた。

 彼女の指先に目が行く。それはまるでスイーツみたいにかわいくて甘いネイルアート。しかしそれを見るたび、わたしは頭の奥でじんわりと苦みを感じるのだ。

   ※

 冬、わたしが小学4年生の時だった。

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