あとがき(のようなもの):海外ボードゲームに関する同人活動あれこれ

先日公開した「海外ボードゲームに関する同人活動あれこれ」について予想以上の反応をいただき、ありがたく思うとともに補足が必要なのでは、と思った次第。前回以上にまとまりのないものになると思うのでお気楽にどうぞ。

注:ポジショントークです

といっても別に特段の利益関係があるわけでもないのですが、私は私なりにボードゲームコミュニティに対する意見を持っていて、そうした立ち位置からの言説なので当然意識的あるいは無意識的なバイアスがあるだろう、という程度の意味です。それを言ったら人間の発言なんてほとんどがポジショントークですけれど。以下の文章に同意するも反対するも、ご自身のお考えの上でご判断いただければ幸甚です。

補足あるいは蛇足

で結局ルールブックには著作権が発生するの?

いろいろ書きましたけど、結論から言うとわかりません。私が法律の専門家ではないから、というのもありますが、著作権の専門家であっても確実なことは言えないのではないでしょうか?結局のところ、ケースバイケースで個々の案件について判断する必要があるでしょう。実際、ボードゲームのルールブックと言ってもいろいろあって、「抽象的でテーマのない簡単なカードゲームのルール(A41枚)」なら著作権が認められない可能性は高いだろうし、「ファンタジー世界の中で様々な魔法やアイテムを集めて冒険する中重量級ゲームのルールブック(アイコンの付いたカードイラストの図説がたくさん入って32P)」なら著作権が認められる部分がそれなりにありそうな気がします。私が言いたかったことは「ルールブックだから著作権は発生しない、とは言い切れない」ということであり、どのような形であれ翻訳に関する同人活動をするならそうした潜在的なリスクを認知しているべきではないか、という話なのです。
もちろんここで著作権について本格的な議論をする意義もあると思うんですが、私はそれ自体には興味がなくて(ところで、例えばドイツ人がデザインしてアメリカの会社から出ているルールブックを日本語訳してGoogle Docにアップして公開した場合、どこでどういう裁判になるんですかね?)、「潜在的なリスクがあるなら、デザイナーなりパブリッシャーに問い合わせてスッキリさせてから活動すれば良いんじゃない?」と思っております。

この辺、権利的にグレーゾーンのまま活動している(らしい)二次創作同人文化圏と、同一視する必要はないんじゃないかと思っています。あれはあれでいろいろな事情があるのでしょうが、こちらは「和訳ルールブック公開」というシングルトピックの話ですし、海外パブリッシャーの多くはこうした活動に理解もあるし、問い合わせたら許可してくれるケースが少なくないのですから。

でも問い合わせするの面倒だし……

昔に比べれば格段に楽になりはしましたが(場合によってはTwitter140文字以内で許可がもらえちゃうのだ!)、英語で問い合わせするのが面倒なのはよくわかります。とはいえ、別にかしこまったビジネスメールを書く必要はなくて「和訳したんだけど、BGGにアップして共有しても良い?」くらいでも多分大丈夫です。追加で自分のことや、そのゲームの好きな部分などをアピールできるとより良いでしょう。文面も、今時は機械翻訳+文法チェッカーでかなりいけるような気がします。私は機械翻訳は使わないけれど、何年も前に入れたGingerの拡張機能が時々ミスを教えてくれます(Grammarlyを試してみようかな、と思いつつ放置しています……)。もちろん相手によっていろいろ違うと思うんですが、あまり構えずにとりあえず問い合わせしてみるのも良いのではないでしょうか。海外出版社の多くは小規模で堅苦しくないところだし、中の人は大抵ゲーム好きですから広くみれば仲間のようなものですよ(と考えると多少気楽になるのでは?)。問い合わせるルートとしては、パブリッシャーサイトの問い合わせ先が安全確実ですが、私はTwitterアカウントや、クラウドファンディング中ならそのプラットフォーム上で連絡することも多いです。稀にBGGアカウント経由。

許可をもらうと何ができるのか

ネット上で公開できます。基本的にはそれだけ。それがどういう権利のもとに行われているのかはよくわからないです。無料公開の場合はそこまで詰めなくて良いと思っていますし、先方からあれこれ言われたこともありません(このあたりフェアユース的な考えが強いのではないかと思っていますが)。まずありえないとは思いますが、本格的にこじれて裁判沙汰になった時に法的にどの程度根拠があるのか正直わかりませんし、翻訳物の権利が誰にあるのかもよくわかってないです。こちらから公開をお願いして結果としてパブリッシャーのページに載った場合も、あるいは依頼を受けて翻訳物を提出した場合も、その辺を細かく話したことはありません。まあ私の場合は完全な趣味なので……(基本的には皆さん翻訳者に一定の権利を認めてくれていると思います
アップするならBGGにしろ、公開は許可するが内容をOfficialに認めたわけではない、将来的に取り下げろという可能性があるぞ(実際に言われたことはないです)、などといった条件をつけられたことはありますが、どれも常識の範囲内だと思います。ブログや記事などの場合は、出典を明記しろとかオリジナルへのリンクを貼れとか、こちらも常識的なことを言われるくらいですね。
一方でBGGにファイルをアップロードする場合は(自分が著作権保有者でない場合は)「権利者に許諾をもらったのか」を明記しなければいけないので、ちゃんとパブリッシャーなりデザイナーなりの許諾を受けることは、BGGの規約上でも意味があることです。

ちなみに"Approved by (許可してくれたPUBLISHER/DESIGNERの名前)"の一言書いておけば大丈夫です。BGGのスタッフがどのくらいチェックしているのかわかりませんけど、私はアップして年単位で時間が経ってから「このファイル、パブリッシャーのサイトにあるのをDLして上げたんじゃないの?そういうの駄目だよ」って言われたことがあります。いやパブリッシャーのサイトにあるそのファイルを作ったのが私なんですよ、と返事しました。

わざわざ許可を得る意味あるの?

日本語版が出るような場合はわかりませんが、そもそも国内だけで活動していてBGGにアップしたりしているのでなければ、版元やデザイナーの目に留まる可能性は極めて低いですし、訴訟や賠償請求などといった実害が発生することはまずないと思われます。そういう意味で許可を取らないで活動するリスクはあまり高くない、とは言えます。元の記事で書いたように、気持ち的な部分が強いと思います。一方で、許可を取る意味自体は(活動の目的次第では)十分にあると思っています(後述

法律とコミュニティ

何がゲームシステムを守るのか

ボードゲームのシステムは著作権で守られない、ことはよく知られています。部分的には特許などで守ることができることもよく知られていますが(例:M: tG)、これをすべてのゲームに適用することは現実的とはいえないでしょう。にも関わらず、ボードゲームパブリッシャーはゲームデザイナーと契約を結んで出版権を獲得した上で製造をしていますし、デザイナーはそうした契約に基づいて収入を得ていますし、我々はパクリゲームを非難するわけです。1990年代のドイツゲームから始まる近代ボードゲームの興隆の一つの特徴はゲームデザイナーの権利を認めその立場を確立したことにある、と言えるでしょう。ではその権利を支えているのはなんなのでしょうか?
一度出版されたゲームのコピー品が出回った場合は不正競争防止法で訴えることはできるでしょうし、偽造や詐欺にも抵触する気がしますが、コピー品ではなくタイトルも設定もイラストも違っている場合は特に法的に問題はないと判断されてしまうわけですし(例:三国殺)、そもそも製品になる前のゲームシステムを保護することは難しいのです。じゃあどうすれば良いのかというと結局コミュニティ内での不文律とその時々の議論によって対応するしかないのではないでしょうか。少なくとも今のところは。

自治

実際著作権などのルールでゲームシステムを守ることについては、実際のゲームデザイナーの中でも反対する人が少なくありません。新たなゲームの楽しさがシステムの模倣と修正から生まれることは確かであり、たとえばデッキビルドやワーカープレイスメントのようなシステムが特定デザイナーやパブリッシャーに専有されてしまえばゲームの多様性や楽しさが失われることになりかねません。今のところはデザイナー・パブリッシャー・ユーザーを含めたコミュニティとしてある種の自治が必要だと考えています。一方でこうした明文化されたルールのない自治は、吊し上げや過剰な制裁による私刑に陥る危険性も持っているわけで、また別の危うさがあると思っています。結局のところたったひとつの冴えたやりかたなどはなくて、コミュニティ内の人間が常により良いコミュニティを目指して考え、議論し、判断していかなければいけないのだろうな、と思っています。もちろん、そんなに堅苦しいことを考えずに日々のゲーム体験を楽しむことも大事だし、それこそがユーザーの特権なわけですけど。

私が思うこと

理想としては

様々な関係者がそれぞれ互いにリスペクトしたコミュニティが良いな、とは思っています。当事者間には利害関係があって難しい部分もあるし、時には批判や非難もあるでしょうが、それでも協力していければ良いですよね。ボードゲームが広まって市民権を得つつあるとは言え、(中量級以上のユーロゲームを含む)ゲーマーズゲームというのはコアな趣味であり、爆発的な拡大が見込める市場でもないでしょう。世界的に見てもAsmodeeによる拡大路線も一段落した感があり、共和制的なコミュニティを目指すのが妥当ではないでしょうか。海外インディーボードゲームの翻訳・紹介を二次的な趣味としている私としては、海外パブリッシャーやデザイナーの権利を尊重することが一つの敬意の持ち方だと思っています。
それとは別の話として、国内のボードゲーム出版・ローカライズ・流通業については、維持可能な発展をしていただきたいと思っていま……正直に言うとですね、日本語版出過ぎなんじゃないかという危惧は抱いております。たくさんのゲームが日本語版としてローカライズされて流通されるのは本当にありがたいんですよ。でもちゃんと黒字出して欲しいしちゃんと次に繋がって欲しい。一方でお財布にも居住空間にも限りのある身ですから、日本語版が出たものを片端から買うわけにもいかないしお高いゲームは手が出ない。毎月発表される量を見ながら(そしてローカライズコストが高いゲームの日本語版情報を見ながら)、これで大丈夫なのか、と他人事ながら心配してしまいます。中量級の言語依存度が低目の佳作、なんかは日本語化しなくていいと思うんですよね……(個人の感想です
とは言いつつも、世界を見渡すと面白いゲームがたくさん埋もれていて、そういうものを発掘したり紹介したりするのもそれはそれで楽しくて、その結果として海外パブリッシャーに、日本にも市場があることを認知してもらえたら自分としても得じゃないか、という気持ちもあったりして、他の方のご迷惑にならない範囲で活動を続けられれば、と思っています。

問題点

そもそも日本の人に紹介して読んでもらうための和訳ルールブックをアップしているのが英語サイトのBGGってどういうことなのよ?という点については私自身毎回疑問に思いながら続けております。ルールを和訳したよ!読んでね!読むためには英語サイトのユーザー登録してログインしてダウンロードしてね!っておかしくない?そもそもBGGにアカウント持ってるような人にわざわざ和訳ルールを提供する意味あるの?
本来なら自分自身でサイトを作ってその上で公開するべきなんでしょうが、それはそれで面倒だし、公開許可を申請する際の説明もいろいろとハードルが高くなってしまう(BGGなら「BGGで公開するよ」で良いので楽なのです)。なので結局BGGに公開して、BGGにアカウントを持っていない方は応相談(連絡していただければファイルを送ります)という形で妥協しております。国内にBGGと連携したポータルサイトができるとありがたいんですけどねえ(他力本願)

無料で翻訳をすることで、本来の翻訳者の仕事を圧迫しているのでは?みたいな話も時々出るんですが、これは正直良くわからないです。そもそも私が趣味でやっている活動は「私が和訳しなければ本来正式な和訳も作られなさそう」みたいなところを狙っているのであまり競合しないのでは?と思っていますし、一方で私が和訳を公開した後で日本語版が出る場合もプロの方が一から訳し直しているようで、特にダンピングのようなことにはなっていないのでは、と思っています……が実情がどうなっているのかはわかりません。問題があるのであれば是非ご指摘いただきたいところ。

それとは別により効率的な翻訳活動をしたい気持ちもあって、他の人と被らないでやりたい、とか、相互に意見交換したり校正しあったりすることでクオリティアップをしたい、とかそういう欲求はあります。ありますけど、単純に私の人脈が狭くて性格が内向的で(以下略)なかなかそういう方向に活動が向かわないのが残念なところ。もし、お前の話を聞いてやってもいいぜ、という方がいたらお声がけください。よろしくお願いいたします。

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