Jamila Woods - Legacy! Legacy!:Disc Review without Preparation

ジャミーラ・ウッズ『LEGACY!LEGACY!』

シカゴのチャンス・ザ・ラッパー周辺のコミュティのシンガーで詩人のジャミーラ・ウッズの2作目が良い。

ビートの音の1つ1つの生々しさと打撃音と破裂音のノイズ感がすげーエモーショナルで、ベースの低音の低さと厚さ、ギターやシンセも刺激が強い音色で触覚的。肌が感情を受け取るくらいのサウンド。ベースラインも時々現れるギターソロも超エモーショナル。それそれのフレーズが不穏だったり、怒りにも似たテンションがあったり、いちいち意味が強すぎて切迫感さえある。

リズムに関しても、パッドぽい音でも、ドラムセットにパッドが組み込まれてるのをドラマーがスティックで強めに叩いてるような勢いのある音色と質感で、ビートにいちいち感情が宿ってる感じがするのがホントに素晴らしい。言葉がなくても、音楽がそれだけで物語の情感を表現してる感じがするのが本作の魅力だ。しかも、使うイヤフォン変えると音の感触が変わったりするくらいに音そのものが面白い。音域とか音圧とか、ビリー・アイリッシュなどと同時代の音って感覚も確実に入っている。

一方で歌は、これまでのジャミーラ・ウッズの作品通りの割と平坦さのままなので、後ろの音とヴォーカルの関係は不思議なバランスなんだが、逆に子の声だからこそ、どこか超然とした雰囲気を醸し出していて、このサウンドに負けない凛とした強さを感じたりもする。そこも面白い。

曲名に「サン・ラ」ってのがあったりで、ホントにアメリカはスピリチュアルなところにどんどん入り込んでるなと思う。「マイルス」はキースやチック在籍時のフィルモア辺りの感覚かしら、とか。その辺はマイルスもサンラもアフロフューチャリズだけじゃなくて、「マディー」がマディー・ウォーターズだとしたらサイケデリックってことなんだろうか。で、「バスキア」もいる感じだとすると、ロックというか、ニューウェイブ/パンク的な感覚もあるのだろうかなどとも考えていると、サウンドが衝動的なのもしっくりくる。

その中にはジャズ的な何かを感じる箇所も多く、「バスキア」のバンドのサウンドはもちろんだけど、サバの高速ラップとかケンドリック・ラマーの「for free」やフライローの「never catch me」を思い出したりも。ここもコールアンドレスポンスがハマっててかっこいいわけだが、ジャズの中でもビバップやフリージャズ、ノーウェイブが好きで、それらと同じようにインダストリアルやノイズなんかも好んでいたバスキアのことを考えると、このアルバムにはそういったある種、破壊的で越境的なエネルギーに溢れた音楽家の名前が並んでいることにも気付く。マイルス、マディ、サン・ラあたりはそういう捉え方もできる。

一方で、「ボールドウィン」は詩人/作家のジェームス・ボールドウィンなのだろうし、「キット」はボーカリストのアーサー・キットみたいだから、破壊とは違う面も表現されているわけだが。

本作を聴いて思ったのは、ジャミーラ・ウッズ、ノーネームとか、タンク・アンド・ザ・バンガスがそうだけど、ポエトリー的な表現が増えた気がするのもあり、フィリーのネオソウルにもあったアメリカのコンペティティブなボーカル表現のひとつとしてのポエトリーのシーンの状況を知ることがそろそろ必要な気がする、ということ。

とりあえず、今のシカゴにはあるんだろうけど、タンクがそうならニューオーリンズにもあるんだろうし、ジル・スコットやフロエトリーなどのようなネオソウルを考えればフィラデルフィアにもあったんだろうし、おそらくアメリカのそれなりの規模の都市にはどこにでもそういったシーンは大なり小なりあるんだろう。ゴスペルでのドラムがアメリカのブラックミュージックに大きな影響を与えているのと同じような話で、ローカルなポエトリーのシーンが重要な気がする。ここがわからないと前に進めないかもなぁとさえ思った。

この話は、JTNCを読んでる人はピンときてるかもだけど、現代ジャズもサックスの表現が滑らか=レガートになったことで変わったものは多かったと思うって話に繋がる。細かく割られるようになったり多層的になって複雑化したリズムに対して、声をリズム化せずにスムースなフレーズを合わせて、そのリズムを活かしつつ、新たなフィーリングを得るみたいなのがとても重要だったのを思い出す。今、トランペットにしてもそういう表現は少なくない。

ジャミーラ・ウッズにしてもリズムに乗せるラップとのコントラストが面白く、それが個性にもなっている気がする。高橋健太郎さんがベッカ・スティーブンスやグレッチェン・パーラトを背後の演奏が見える歌と評してたけど、そんな効能もあることを考えると、そこにポエトリーという表現方法の有効性を見るのも間違いではない気もするんだが、果たして。

ちなみにシカゴの同じコミュニティのノーネームは歌のタイプはそう遠くはないが、バックのサウンドの傾向が全く違っていたり、音楽に込める情感やメッセージの在り方が全く違っていて、比べてみると面白い。音楽が表現できるものの多彩さや多様さを感じさせてくれる2人だ。

(2019/05/10)

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柳樂光隆

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柳樂光隆

Reviews by Mitsutaka Nagira

音楽評論家 柳樂光隆によるディスクレビューです。 即興的にディスクレビューを書いた「Disc Review without Preparation」が多めで、たまに長文のレビューがあります。
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