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世界の終わり #1-10 プレミア

「レアものの点数は多くないが、個人所有にしては結構な数だよな。これだけの数を集めるのに、どのくらいかかったんだ?」
 ケースからだしたウルトラ怪獣、ジラースの襟巻きを弄りながら、荒木が尋ねた。
「子供のころから集めていたよ」と、峰岸氏。
 値段の話かと思ったが、収集にかかった時間についてらしい。
「見たところ、平成以降のシリーズは対象外のようだが。それってなにかしらの理由があるのか」
「いや。とくに理由は」
「あ、そう」素っ気なく返して、ケースへ目を向ける。「平成以降にデザインされたウルトラ怪獣って装飾しすぎているものが多いから、おれは苦手だよ。だから、おれも、収集するなら昔のものかな。セブンに登場した宇宙人とか、デザイン的に秀逸だもんな」
「詳しいようだね」
「そりゃあな。長いことこの仕事に就いていると、詳しくなるさ。あんた、あれだろ? 造形デザインからハマってフィギュア収集をはじめた口だろ。ウルトラシリーズなのに、怪獣ばっかりだもんな。集めているのって」
「よくわかっているじゃないか」
「似たり寄ったりのウルトラ兄弟じゃ、デザイン的に萌えないってわけだ」
「萌えるかどうかは別として……まぁ、そうだな。ウルトラマンもウルトラマンセブンも、わたしにしてみればさほど違いのない、似たようなものかもしれないな」

「――!」

 ぼくは作業していた手をとめて、荒木へ目を向けた。
 荒木も見つめ返してきた。しかしすぐに視線をそらされた。間違いなく荒木も気づいたはずである。峰岸氏の――いや〝峰岸氏の名を騙っている〟この男が犯してしまった過ちに気がついたはずだ。
 話がスムーズに進みすぎていると思ったら、まさかこんな落とし穴が用意されていたとは。
 …………。
 まずい。
 非常にまずい状態に陥っている。
 必死に頭を働かせてみるけれども、峰岸氏が嘘をついた理由や目的がわからない。これまでに起こった事柄を最初から整理してみる必要がありそうだが、思考するほどに不安が増していく。

 ぼくは平静を装って詰めこみ作業を再開した。
 峰岸氏の名を騙った男の表情を窺いつつ、これからどうすべきか頭を働かせる。
 さぁ――どうする? どうしよう。
 どうすべきか。

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