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文章化デトックス

わたしは小説を書きたい人間だ。それが人様からしてみれば小説とは呼べない代物であっても、それでもなおわたしは、そんなことなど気にせずに自分の好きなように小説を書き続けたいと思っている。
しかしながら、「これは小説だ! と自分で言ってしまえばそれは小説なんだ!」とか、「収入がなくても小説を書いているのなら、それは小説家と言えるのだ!」などと傲慢なことを言うつもりはない。そもそもわたしの書く文章が、そんなレベルには到底達していないことをわたし自身がよく知っている。

早い話、完全なる自己満足なのだが、少なくともわたしが書いているものは、わたしの中では〝一応〟小説ということになっている。ただそれだけだ。
これは一見、上述した内容と矛盾しているようにも感じられるが、わたしの中ではこの辺ははっきりとしている。だが、これ以上この話は書くまい。このことに関してこれ以上語ることは、読み手にとってもわたしにとってもおそらくあまり意味のないことだからだ。

で、今日は何を書きたいか。
それは、小説で表現したいことについてだ。

「答えが出ないものは、小説にするべきなんだ」

「3652~伊坂幸太郎エッセイ集~」 文庫版P180より


伊坂さんはこうおっしゃっている。すごくしっくりくる言葉だ。
この言葉を受けて、わたしが感じたこと。
特に、小説を書くうえで頭の隅に置いていることをいくつかあげたい。

  • 結論が出せないこと(あるいは、結論が出ないこと)を書く。

  • どうしたらいいか、わからないこと。また、そのときの気分や感情。

  • いけないことだとわかっているのに、ついその領域に入ってしまう人間の弱さ。

  • 言葉ではうまく表現できないが、しっかりと心の中に宿っている思い。

  • 男女のちょっとした会話、会話のズレ、触れあい、すれ違い……。そして、そこから生じる人間らしさ(人間臭さ)。

  • 生活するうえではすぐには役に立ちそうにもないけれど、そのことについて考えていると自然と心が揺さぶられるもの。

  • 寂しさや切なさ、辛さを感じたときに、なぜだかよくわからないが読みたくなる文章を書きたい。

  • 直接的ではなくても、誰かの生活のなかで生き続ける文章であること。

今思いつく限りでは、わたしはどこかでこんなことを考えている。

話は変わるが、最近BSをよく見る。
先日、BSテレ東の「あの本、読みました?」を視聴していると、ゲストに小説家の島本理生さんが出演されていた。ちなみに司会は、鈴木保奈美さん。
番組内で、島本さんがこんなことを話されていた。

理解されにくいことを言葉で描くのが小説家

現実世界でこんなことを言ったらきっと理解されないだろうな、ということを、小説では表現できるという意味だろうか。
そのくらい小説の世界は自由ってことだ。そして、だからこそ、人に寄り添ってくれるのだと思う。

読者は物語の中に自分を見つける。私ごととしてその作品に入り込む。
やがて、ストーリーの中で、自分と直接リンクする部分が見つかると、いつのまにか一旦物語から離れて、現実世界の自分の周辺のことまであれこれ考えてしまったりもする。
この部分こそ、わたしが小説を書きたい一番の理由かもしれない。
まさに、書き手と読み手が強く結びつく瞬間である。
人は誰かに(何かに)共感すると、その人に(物事に)好感を持つはずだ。
……ということは、結局のところわたしは、人との関わりを〝強く〟求めているということなのだろう。

友人と深夜まで熱く語り合ったことがあるという方も多いだろう。
それはきっと、答えのないテーマについてだからいつまでも語っていられるのだ。
仮に、答えがある程度用意されている問題だとしても、その答えが自分にとってしっくりくるものでなければ、それはおそらく答えではない。
だから、それについてまた延々と語り合う。もしくは、一人で悩む。

わたしはどちらかと言えば、悩むことが多い人間だ。
ただ、一人で悩むということは、結局は堂々巡りで答えが出ず、ただただ憂鬱になっていくだけ。
そんなときは、できるだけ思いを文章化することにしている。
つまりこれが、わたしが小説を書く原動力みたいなものだ。憂鬱は、創作への力になるのだ。

人から評価されることも大事だろう。それはモチベーションにつながる場合もあるし、それだけ自分に(あるいは自分のやっていることに)価値があるということも確認できる。
しかしわたしは、そんなことよりも、自分の頭に自然と浮かんでくる雲みたいな〝現象〟をただひたすら自分の思うように書き残したいだけなのだ。そうすることによって〝自分を保っていきたい〟とでも言おうか。

悩みは、なかなかの毒素だ。
それを体内から放つことが、真の意味での「わたしにとっての文章を書くこと」なのかもしれない。まさに、文章化デトックスだ。

誰かのためになりたい、とは思う。
けれど、そのためには、まず自分のために書きたい。
そして、今日も明日も、わたしはわたしを保っていきたい。

今、わたしの視界には、少し霞んだ青が広がっている。
この空の続きに、わたしが想う人、わたしがとても会いたい人、これを読んでくれている人がいるかと思うと、自然と勇気が湧いてくる。状況しだいでは涙も出そうだ。
だが、そう思うのは一瞬だけにしておいて、わたしはコーヒーを飲みながら、再びデトックスの世界に浸ることにする。

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