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コンプレックスはくるくるの髪、自信をくれたサラサラの髪。

人には誰しもコンプレックスがあると思う。
少なくとも私にはある。
それも全身ほとんどに。

生まれつき厚い一重瞼、くるくるの天然パーマの髪、赤ちゃんのように小さな手、短い指と爪。
幼い頃から樽のようにまんまるな体。
気がついたら隙間がない太もも。
この辺はかなり努力したつもりだけれど変わる事はなかった。
あるひとつを除いて。

それはまっすぐなサラサラストレートヘア。
幼稚園の頃からくるくるの髪が既に大嫌いで、一番コンプレックスに感じていた部分である。周りの子はサラサラで綺麗な髪をお母さんにポニーテールにしてもらっているのに、私だけポニーテールにしてもくるくるで広がってまとまりのない髪。本当にプードルの耳のような髪だった。

小学校高学年になると、少し癖のある髪の子たちはこぞってストレートパーマをかけ始めた。ほんの少しのうねりの髪なのに。サラサラになった髪で学校にくるとみんなから憧れの目で見られ、いいなーと一人、また一人とサラサラヘアの子は増えていった。
中学生になると私の天然パーマはいじめのきっかけになった。それだけではないんだろうけれど、いくら清潔にしていても腫れぼったい瞼とプードルの耳は直しようがなかった。
廊下を歩くだけで「きもい」「汚い」「消えろ」という言葉をかけられ、外では執拗に「おいブス」と帰り道すれ違う同級生はともかく、先輩やしまいには後輩にも言われるようになった。

徐々に鏡を見る事も、外に出る事も、人に会う事も怖くなり、下しか見なくなっていった。コンプレックスから自分が更に大嫌いになった。そんな下向きのわたしは恰好のいじめの対象になり、卒業するまでの3年間は地獄だった。
母は昭和の人間で、幾度となくストレートパーマをかけたいと要求したが高校を卒業するまではダメだと折れなかった。学校の規則でパーマはダメだといわれている、それにお金を稼ぎもしない人がそこにお金をかけるのは間違っていると。当時はその考え方が許せなかった。あなたの遺伝のせいでわたしはなりたくもないくるくるヘアになり、される必要のないいじめを受け、自信をなくしうつむく日々を送っているのだと。
今社会人になって自力でなんとか生活していると、その考え方は至極真っ当でわからなかった私は子供だった。

でも、嫌なものはいやだった。

そして、高校を卒業して真っ先にしたのは髪にストレートパーマをかける事だった。きちんとしたおしゃれな美容室に行ったのはその時が初めてで、ドキドキした。

「今日はどうしますか」
綺麗な茶髪の美容師さんに聞かれた。
「ストレートパーマをかけたいです」
その6年間憧れ続けた言葉をついに自分の口から出した瞬間だった。
生まれて初めてのおしゃれな美容室は緊張しっぱなしだった。
髪に薬剤をつけて、洗い流して乾かして、アイロンで髪を伸ばしてまた薬剤をつけて、洗い流して乾かして。
3時間があっという間に過ぎていった。

「終わりましたよー」
美容師さんのその一言で、ようやく私は鏡に映る自分を直視できた。
そこにはわたしがよく知っているくるくるヘアの女の子はいなかった。
胸まで伸びた綺麗なサラサラのストレートヘアの女の子がいた。
わたしも可愛くなれるんだ...
恥ずかしいが、その時初めて自分が可愛いと思った。
ストレートヘアになったわたしは無敵のように思えた。

19歳の春から26歳になった今でも定期的にストレートパーマをかけて、長かったり短かったりはするものの、わたしはサラサラヘアを保っている。
少しだけ、ほんの少しだけそれで強くなれるのだ。
もうくるくるヘアをバカにされることはないし、サラサラな事に優越感を覚えている。
コンプレックスが無くなれば自信が持てる。
その姿を保ち続ける為に一生懸命働く。
そういう生き方もいいのではないかと思う。

わたしに少し自信をくれたのはサラサラの髪でした。

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