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仕事人間

父のことや自分のことは少しだけ記事にすることができたが、母のことをメインに書くことは、なかなか難しい気がしている。

それはきっと、私にとって母が「ラスボス」だからだ。

ただ、今回は少しだけでも、母のことに触れてみようと思った。

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私の母は、高校卒業後、短期のアルバイトを転々とし、最終的に福祉施設に就職した。35年ほど勤めたが、内部の揉め事に巻き込まれ、「責任をとる」というカタチで退職した。

福祉施設の労働環境は良くなかった。母は毎日祖母に職場の愚痴をこぼしていた。他の職員の仕事のやり方、法人の経営、上司からのいじめ、不倫、などなど。

愚痴の内容はきちんと理解できていなかったが、子どもながらに「お母さんの仕事は大変なんだ」と思って聞いていた。

祖母は、毎日愚痴を聞きながら、最後に必ず「どんなに嫌なことがあっても仕事は辞めちゃいけない」と言うのだ。

祖母がそう言って寝に行くと、母は私に

「お母さん大変でしょ?Ellyのために働かなきゃいけないでしょ?」と言っていた。

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母は母なりに、学校の行事にはなるべく来てくれていたのだと思う。でも、すべては来てくれなかった。夜勤があったり、他の職員の休みを優先して、勤務を交代したりしていた。

行事の準備もあまりしてくれなかった。今思えば、たぶん行事があることすらわかっていなかった、把握していなかったのだと思う。

学芸会で必要な衣装、遠足のお菓子、掃除で使うぞうきん、お弁当。

「お母さんは忙しい」から、私は母に言うことができなかった。

「私のために働いてくれている母に、準備をしてもらうのは悪い」と考え、我慢していた。

大人にとっては大した金額ではないにしても、「お金がかかること」というのも、なんとなく言いにくかった。

ノー干渉の父にはもちろん言えない。

祖父母に「必要なもの」を説明するのも難しい。

学芸会の衣装は家じゅうのタンスをひっくり返して見繕い、遠足のお菓子は仏壇にあったべつに好きではないものをいくつか頂戴し、ぞうきんは自分で手縫いして(めちゃめちゃ下手くそだった)、お弁当が必要な時はとりあえずおにぎりを握ってみたりした。

「お母さんに迷惑をかけちゃいけない」

そう思って、必死に自分でやろうとしていた。

ただ、正直、「Ellyのため」と仕事に行くよりも、行事の準備を一緒にして、行事にも来て欲しかったと思う。

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大学で就活に失敗した私は、母が施設を退職して開設した会社に入社した。福祉関係の会社だ。

仕事では、今現在まで10年近く、さまざま理由で「困っている人」と接してきた。

何かしらの理由で困難な状況にある人を、どうにかして少しでも楽にしたり、幸せになるようにしなければならない。

「福祉関係だから、やさしければ何とかなるんじゃないか」と思っていたが、全然そうではなかった。

仕事はわからないことだらけだった。

私は母に仕事について聞くのが楽しかった。相談者のこと、病気や障害のこと、サービスや制度のこと、会社のこと、対人援助の専門知識・技術。

きっと私は、ただ純粋に、母が私の質問に真摯に答えてくれることが嬉しかったのだと思う。

まだアダルトチルドレンであることには気づいていなかったが、なんとなく「子ども時代をやり直しているのかな」「母との時間を埋めているのかな」と思っていた。

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社会には、不幸があふれている。

不幸に陥っている人を、少しでも楽に、少しでも幸せにする仕事は、決して楽ではない。感情とメンタルの維持、技術、時間、信念、忍耐が必要だ。

いろんな困っている人・子を相手に仕事をしていると、母は私に言うのだ。

「Ellyは幸せ。何の不自由も苦労もないでしょ」と。

不自由も苦労も無いのが幸せだと言うのなら、私は幸せなのだろう。

ただ、私は今、苦しくて仕方がない。

母に「Ellyは幸せだ」と言われるたびに、泣き叫びたくなる。

「私の幸せは私が決めるよ」と言い返したことがあった。

母は「何言ってるの」と笑っていた。

「お母さんが行事にも来ないで働いてくれたおかげで私は幸せだよ」とでも言えばいいのだろうか。

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私はこの仕事が「やりがいがあって楽しい」と思っている。それは今も変わらない。

ただ、母と同じ仕事をするのが、最近とても苦しくて、つらくなっている。

子どもの支援をする時、母は必ず関係者に

「その子の良いところを見つけて、ほめて、ポジティブな良い言葉をかけてあげましょう」と言う。

私は、母から良い言葉をかけてもらったことが無い。そういう母の第三者への言動に、とても過敏になってしまっていて、私を苦しめるのだ。

母はそろそろ還暦で、私に委ねようとしているところがある。もちろん私がそれを望んでいると思っている。

「仕事」で母と縛られているこの状況から、「どうやったら逃げられるかなぁ」と、日々考えている。

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