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映画評「THE FIRST SLAM DUNK」

それは私がまだ小学生の頃なので、今から40年以上も前のことである。当時の私は足が早く、田舎の小学校で生徒数が数十人の小さな学校では、負け知らずであった。毎年の運動会での徒競走では必ず1位を取っていて、毎年、そのことを期待されていたのである。

周りからは「今年も○○ちゃんが1番だね、頑張って」と声を掛けられ、期待されていることとは裏腹に、当の本人は運動会が来るのが嫌で嫌で
仕方がなかったのである。

中学に進学したある日、運動部の顧問を長く勤めた経験のある先生が校長として私の学校に赴任してきた。その校長は運動をよく熟知しており、顧問でもないのに私の所属しているテニス部にも顔を出し、色々と指導してくれていた。その言葉には一つ一つが重みがあり、説得力があった。

その校長が運動会の前にふと私に言った

『明日、運動会が来るのが嫌でしょう。
 みんなは足が遅い子や運動の苦手が子が運動会が嫌いだと思っているけど、本当は違う。本当は足が早くて周りに期待されている子の方が何倍もプレッシャーを感じて、運動会が雨で中止になったらいいと思っている。運動の出来ない子の嫌さとは比べれものにならないくらい、勝つべき人にとって負けることは怖くて苦しいことなんだよね』 

私は驚いたことを覚えている。なんでそんなに気持ちがわかるだろうって。きっとスポーツの厳しい世界に長くいて、そういった選手の機微を理解しているのだろうと。

前段が長くなったが、映画『the  First slam dunk』を観て、思い出したのは、この遠い昔の校長先生の言葉だった。

私は世代的にも「スラムダンク」をリアルタイムで読んでも見てもいないので、名前とバスケットの漫画であることは知っているが、詳しく内容までは理解していない。だから、いちにわかファンとして、話題作であることから今回、映画館に足を運んだのである。  

感想としては『音楽と試合の緊張感であっという間の2時間であった』という感じで、本当にエンタメとして面白かった。
このnoteでもYouTubeでもさんざん皆さんが評価をレビューしているので、私は山王工業側の視点で考察を述べてみたいと思う。

山王工業は、秋田の実際のバスケ強豪である「能代工業」で、全国制覇22回のバケモノ級の名門です。(最近は留学生のいる高校が増えて低迷)

映画の山王も圧倒的な優勝候補としてインターハイに臨んでいます。彼らは控えの選手も含めて、起きてから寝るまでの間、バスケの事しか考えて
いない生活をずっと続けてきた才能と努力の塊の選手たちなのです。それゆえに、この選手たちは必ず勝たなけれなならないのです。

そこには絶対的なこの世界の鉄則・原理原則があります。

『努力は必ず報われる』

この鉄則は、小さい頃か学校でも家庭でもずっと言い聞かされてきている言葉でこの原理原則は破られては世の中の秩序が保たれなくなるくらい重くで重要なこの世界の「ことわり」なのである。

山王の選手は、特に河田や深津、エース沢北などは、湘北のメンバーがグレたり、人生の道草を食っている間もずっとバスケのことだけを考えて、時間を惜しんで練習してきた人たちなのである。

その彼らが、バスケに費やした時間の圧倒的に少ないであろう湘北に負ける訳にはいかないのである。それはこの世の原理原則を覆す事であり、世の中の裏切りことでもあるのである。

しかし、世の中にはごく稀に「ほんの少しの才能」「ほんの少しの運」「ほんの少しの油断」でこの鉄則を覆ることが起きることがある。それを世間では「奇跡」と呼んだりする。

少年ジャンプの連載で漫画であり、「友情・努力・勝利」のテーマに則れば、主人公の湘北が勝たなければならないことは規定路線なのかもしれない。

しかし、現実は山王が勝ちに値するチームだったのでないかと感じる、
彼らの受けているプレシャーは優勝候補だけでなく、長年の先輩が築いてきた伝統という重い十字架を背負わされているのである。

湘北のメンバーのドラマが丁寧に描かれているが、大人になった私には、薄くよくある話にしか感じられなかった。(もちろんショータの兄の事故死などは重い出来事ではあるが・・・。)

映画の最後にはその後として、アメリカでリョータと湘北の沢北が再開し、対戦する未来が描かれている。彼はまさに神に懇願した「自分に足りない物」を手にし、最強となって自分の輝かしい未来へと羽ばたいていくのである。

誰よりも高く・・・。 
そう願わずにはいられない。

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