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【創作小説】コクるときは 刻々と近づく⑥

初回からは、こちら⬇各回の終わりにその次の回の貼り付けがあります。

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「うん! がんばる! 私がんばるよ! 」
由奈は、ハチマキ……しかも ねじりハチマキをして、綺羅と怜の見守るなか、自分の部屋に閉じこもった。

この間から……3学期が終わる寸前の頃から、由奈は、自分の恋する「翔くん」への告白をたくらんでいた。

今までは「シンデレラ作戦」、「走れメロス作戦」、共に失敗している。

今度は、由奈が自分で考えた「鶴の恩返し作戦」だ。

作戦は、こうだ。

由奈が、これから3日をかけて、刺繍をしてハンカチを渡す。「I love you, Kakelu.From Yuna.」
3日かけると、もう 終業式まで3日しかない。
刺繍は、意外と時間がかかるので、その残りの3日間は、予備日に充てる。
裁縫や、編み物、ハンドメイドの趣味がある由奈が、とうとう決心したのだ。
セーター、マフラーの編み物は、間に合わないし、季節的にも外れてる。だから、ハンカチへの刺繍で勝負する。

趣味で、裁縫がすきと言っても、まだ中学生。せっせと、針を一生懸命動かしても、なかなか思うように進まない。

時間だけが過ぎる。

夜中の12時を過ぎる。

まだ、少しも進まない。

由奈は、宙に視線を走らせた。
そういえば、この中学2年生の1年間は、楽しかった。同じクラスになった綺羅がいて、怜がいて……。

学年最初に、家庭科クラブだった由奈は、綺羅と仲良くなる。
調理実習で、てきぱきとお菓子を作る綺羅と大活躍し、すっかり「同じ特技のある者同士」で、意気投合する。
続いて怜は、綺羅と同じ小学校出身で、もともと綺羅と仲が良かったらしく、芋づる式に仲良くなる。
よく、体育祭や、球技大会で活躍する怜に差し入れを 綺羅と一緒に持っていった。
怜の所属する陸上部の人間には、時々由奈と綺羅から差し入れがあり、由奈のサンドイッチのおいしさには、特に定評があった。
マラソンのときには、クエン酸入りの特製レモン水や、エネルギー変換の早いバナナサンドが好評だった。 

とても、幼稚園のとき、いじめっ子だったとは思えない、由奈は女の子らしい中学生だった。

この間から、由奈たちの周りをうろついて離れないフタホシテントウが、由奈の傍に居て、じーっと見守っているような気がしていた。

由奈は、せっせと針を動かし続けた。

3日後。

学校から帰って、由奈の家でたむろっていた綺羅と怜の前で、由奈の部屋の戸がばーんっ! と開く。 
「できたー! 」
「(綺羅、怜、同時に)由奈ー!! 」
3人が駆け寄ってハグすると、出来上がったハンカチを見た。
「えぇー!? 2枚もできたのぉー? すごいやーん」
語尾の伸びる綺羅が言うが、
「……」
「……」
「これ? 」
「うん。これ、2人にあげる。まず、2人に感謝したくて」
ハンカチには、「I love you, Kira. From Yuna. 」と、
もう一枚「I love you, Rei.From Yuna.」
「(綺羅、怜)はあ……!? 」
由奈は、頭を掻き、ペロッと舌を出しながら、
「なんかさあ、こっちが先のような気がするんだ。けど、もう、手が痛くて翔くんのが作れないや」
「(また、綺羅、怜同時に)はあ……!?あんた、なにをネボケてんの! 」
怜が由奈に飛び蹴りをかました。(感謝してるけどね、私も)と、怜は思いながら。


鶴の恩返し作戦、失敗。


             つづく

©2023.10.16.山田えみこ


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