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「B型の人が好きなんですよ」

 2年後輩の三島君は、さわやかで面白くてモテそうな青年なんだけど、入社してきたときはすでに結婚して子供も2人いた。学生結婚らしい。だから他の人たちよりずっと落ち着いて見えたし、新入社員なのに家族を養っているから、他の人みたいに自由に使えるお金がなくて、遊んでいる風もなかった。

 ほとんど一緒に働くことはなくて、というかほぼ皆無だったけど、「よくできる」といいううわさは聞いていた。ときどき、部署全体の飲み会で少しだけ話すとか、その程度の付き合いだった。

 彼の入社から3年経って私が会社を辞めるときに、「柏木さん、送別会しましょう」って、なぜか誘われた。そうやって個別に誘ってくれる人は何人かいたから、それほど不思議に思わなかった。

 三島君はじっくり話したことがなかったけど男性にも女性にも好かれていて、とても好印象だった。ちょっと話すときにも、とても温かくて、会話のセンスがいい。

 吉祥寺の、魚にこだわりのありそうな居酒屋のカウンターに座る。2杯めを頼んだころ、三島君が言う。

「僕ね、離婚したんですよ。まだ周りには言ってないんだけど」

 指輪をしていない薬指を見せた。

「え、どうして?」

「嫁がね、ていうか元嫁だけど『沖縄に住みたい』って。沖縄の歴史とか、文化とか、そういうものに夢中になって、子どもを連れて行くって」

「すごい行動力」

「B型気質。僕ね、B型の人が好きなんですよ」

「そうかあ。私もB型なんだよね(笑)」

「そうでしょ。そうだと思った」

 ドキッとする。

「え、それ私のことが好きってこと?(笑)」

「そりゃそうでしょ。そうじゃなきゃ誘わない」

 驚いた。私って無頓着なんだな。

「いつから?」

「ずっと前から」

 今私に付き合っている人がいなかったら、どうなっていたかな? と想像した。

「柏木さんもそういう人でしょ? わりと好きなことに突っ走っちゃうタイプ」

「そうかな? そう見える?」

「そう見える(笑)」

 それからも特に色っぽい話はせずに、面白おかしい話をしてくれた。周りはまだまだ独身ばかりな年齢なのに、バツイチになるってすごい人生だ。モテそうだから、すぐに再婚できるんだろうなって思った。

 会計は、払ってくれた。

「そりゃあ、柏木さんの送別会だから。それに、もう俺独身だしね」

 駅まで一緒に歩いた。駅が見えてきた。別方向だから、もうすぐお別れ。

「ほんと、ごちそうさまでした! 後輩におごってもらっちゃって」

 三島君は少し振り返ると

「じゃあ、お礼に手、つないでくれます?」

 と右手を少し後ろに差し出した。私は黙って手をつないだ。

「なにこれすごいドキドキする」

「俺も」

 私はどこへも行けない恋心を、少しだけ胸の中に残した。

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