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カート・ヴォネガット・ジュニア著/浅倉久志訳『タイタンの妖女』感想 今を繋ぐ、儚い人生のSF。

はじめに

こんにちは。
けむりです。

友だちから借りたカート・ヴォガネット氏によるSF小説『タイタンの妖女』の感想です。

書籍情報
カート・ヴォガネット著、浅倉久志訳『タイタンの妖女』早川書房、2023年

その友人は、非常にSFが好きな子でこの小説と共に映画「ブレードランナー2049」も同時に貸してくれました。ありがとう。

⭐️SFというジャンルについて

また私は、SFというジャンルについて
父の影響が大きく、好きなジャンルです。

父は、松本零士さんの作品、「銀河鉄道999」、「キャプテンハーロック」、「宇宙戦艦ヤマト」を幼い頃に観てました。そして「銀河英雄伝説」「スター・トレックシリーズ」、「スターウォーズシリーズ」などの作品も好きで、父と一緒に観てました。


SFをお勧めする理由についてまとめてます↓



こうした経験も踏まえて、この小説を読んだ感想を率直に申し上げますと、「読了後は、もしかしたら?ってなるけど、太田光さんの後書き部分を読んで納得し、後から凄くじんわりと沁みた作品」でした。

以下、ネタバレが含まれるかと思います。
気になる方は、見た後で読んで下されば幸いです。




感想

メッセージ。それは人間の存在理由

この作品では「時間漏斗曲線」や「単時点」、そして「実体化」なんて、SF好きなら刺さるような固有名詞がどんどん出てきます。

だけど、この物語の全体を通じて読者が考えることは、普遍的な主題である人間の存在理由についてです。

この小説の中では、人間は実は高次に発展を遂げた別の生命体によって知らず知らずのうちに操られているとされます。このアイデアって結構考えられてきたものじゃないかって僕は思いました。けど、もし運命が定まっているとしてその中で人生というものを喜劇のように誰かと一緒に歩んでいくことが大切じゃない?っていう点まで、筆者は描ききっているという事が特徴的だなと感じました。

しかし、そこの点に触れる前に、まず今回はもう一つ面白かっためちゃくちゃな時間軸という点についてお話したいと思います。

めちゃくちゃな時間軸

太田さんの解説にもありますが、この物語は、色んな時間軸が同時にめちゃくちゃに展開されていくようで、初見では中々進んでいくのが大変に感じることがあると思います。でも、それが良いんです。そのまま進んで下さい。

この点って、他の有名な作品にもあるんじゃないかなって感じました。映画だったら「パルプフィクション」とか映画版の「夜は短し歩けよ乙女」みたいな感じがあるかなって思いました。だからあの感じが好きな方にまずめちゃくちゃお勧めしたいんです。

この物語で登場するウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、過去から現在、そして未来の三地点に、宇宙的な存在によって授けられた特性によって同時に存在することが出来ます。

太田さんは、この点が実は人間の面白さを現わしていると考えています。つまり、私達は、一回の時間、劇中の言葉を使うなら「単時点」にしか生きてないと思ってますが、普段の生活の中では、仕事しながら昨日とか10年前の事、そしてこれからの事について不安になったり、逆に楽しみになったりするじゃないですか。つまり、頭の中だけで時間をぐるぐると行き来しているという考察です。そして、その営みの中で生まれた体験達は、各事象ごとに体系づけられ、一種の言の葉となってこれまで受け継がれてきたと彼は考えます。

私は、実は、パルプフィクションとかの面白さってこうした点と繋がっているのかとも感じて、太田さんの解説含め、この作品の味わいに触れた瞬間でした。(太田さんが以前、アイザックアシモフ氏について語る番組を偶々観ていたので、いざ解説を聞くと、やっぱり沁みました…凄いです…)

このように一つ目に気になった時間軸という点については、確かに不思議だけど、それが人間らしさを現わしているっていうことがこの作品の良さとしてまず言え、それは他の作品における共通点があると私は考えます。まさしく「少しだけ不思議」なSFですね。だけど、人間から一番離れているようで近いのがSFだとも言えるのかもしれませんね。

誰かと、生きていく。

最期に伝えたいのは、先に述べたもしくは運命を感じるような気持ちが気持ちがたまにするけど、それでも誰かと一緒に生きていくっていう点まで描き出したという点です。

僕は小さいころから何度も思ったことがあって、
それは、歴史ってホントにあったのかなあって事です。

歴史って文献とか、石碑とかの資料から想定されたものという側面があると思います。だけど、もしそれが仕組まれたものだったら?という想像です。人間がそれを発見するように「誰か」が仕組んでいたんじゃないかなって小さい頃から何となく思ってました。

この作品中でも、ストーン・ヘンジや万里の長城などが、地球に掲げられた伝言分のような役割を果たしていて、それが本当の意味。なんていう場面があります。

ある人物は、それを知ってブチぎれます。これまで生きてきたのってなんだったんだ…意味ないじゃん…って。だけど、その状況を知ったあとでの登場人物たちの例えそうだとしても一緒に笑いとばして生きていく姿勢っていうのが私はこの作品で、一番好きだと思いました。

チャールズチャップリンの言葉もありますが、「人生は近くでみると悲劇だが、ロングショットでみれば喜劇だ」。また、椎名林檎さんの歌詞にも同様な言葉が紡がれていますよね。

この作品では、ビアトリスとクロノという母と息子が出てくるのですが、彼らは非常に凄惨な目にあっても、強固な絆を結び、その遭遇を笑い飛ばして生きていく姿が何度も作中で描かれます。

ビアトリスは、初め貴婦人のように豪奢な生活をしていましたが、どん底のような状況まで堕ち切ります。しかし、彼女はクロノと共に生きる選択をし続けました。

その後、ある人にも出会います。その人を拒絶する幾年かの時間を過ごした後でビアトリスは最後に言います。

「わたしを利用してくれてありがとう」

カート・ヴォガネット著, 浅倉久志訳, 『タイタンの妖女』, 早川書房, 2023年, p.441

「利用」という言葉ってどちらかというと、一方に対して利益の比重が多く感じるような言葉のように思います。だけど、この場面における彼女の言葉は、太田さんの解説にもありますが、誰かと一緒にいることへの感謝を感じます。単時点で生きている私たちにとって、一人で生きてるんじゃないって伝えてくれているように感じます。

逆境の中を生き抜いてきたビアトリスだからこそいいなと思いました。最初は拒絶したにも関わらず、傍にいてくれたこと、その繋いだ気持ちの温度がゆっくりと沁みるような読後感でした。

おわりに 〜単時点の狭間で〜

単時点で生きているように思いながらも様々な時間軸を行ったり来たりして、さらに絶望と嬉しさの狭間の揺れる線の中で生きている自分たち。

それでも生きる強さをこの作品から受け取って、また何かの意味を問う人生の場面で何度も読み返したいってと思いました。

良い作品でした。好きな方、読んだ方、是非コメントください。

けむり

P.S. 貸してくれたTさん。ありがとね!

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