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病院の待合室にて、らくだとの再会。

今日は、数ヶ月に1度の病院の日。
待ち時間はあるけれど、読書の時間ができると思えばそれもまたよし。

今日は、堀江敏幸の「回送電車」をおともに。
全部読んではいるけれど、宝物のような本のひとつです。

潔いまでに真っ白な表紙の文庫本。
ただ目次をめくっただけで、もう毎回恋人に会ったような、言い表しようのない感情になります…。

これも。「正弦曲線」

下揃えの目次。
タイトルの言葉たち。


堀江さんの文章は、読点の少ない長い文が多い。
難解なようでやわらかい、ゆらゆらとたゆたうような日本語の流れ。
文学への愛に満ちていて、知らない世界なのに、そっと覗かせてくれているような、そんな文章ばかり。

回送電車と自らの文学の理想を重ね合わせる。
そんなまえがきにあたる部分を読むだけで、ふぅー、っと心が満たされることに驚く。


そこで一度本を閉じて意識を待ち合いに戻すと、小さな本棚がありました。
下の段に健康関係の雑誌、上の段には子ども用の本。

のりものずかん、とか、しろくまちゃん、とかぼろぼろになった十数冊の中に、ひっそりとあった1冊の絵本の背表紙と目が合いました。

「きたかぜとたいよう」
ブライアン・ワイルドスミス え

なんとそれ、私の本棚に大切に収まっているものと同じ絵本!


子どもたちがもっと小さい頃、雑誌で出会ったブライアン・ワイルドスミスの絵本に目を奪われ、集めたものです。
たったの3冊だけど、宝物。

お話自体は知っているものだけど、豊かな色彩と動物たちの生き生きとした姿にあふれ、画集のような圧倒的な存在感をもっているのです。

ただ、ブライアン・ワイルドスミスの絵本は絶版になっているものが多く、この3冊も古本で手に入れたものたちです。

らくだ出版
今はもう存在しないんです。
調べてみても、詳しい情報は得られず。

3頭のらくだのマーク。
遠い沙漠をゆく彼らのように、なんとも郷愁を誘う出版社と本たち…。


どうしてあの総合病院の待ち合いに、らくだがいたんだろう。
きっとほとんど手にとられることもなく、ひっそりとただ、他の絵本たちの間にい続けるんだろうな。

誰が選んで、いつからあるのか…


まさかそんなことを誰に聞くこともできず(きっと誰もわからないだろう)、ひとり興奮し、その再会にドキドキしながら名前を呼ばれるまで待っていたのでした。

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