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お子は、突然に。

連日続いていた妻の体調不良の原因がコロナでもインフルエンザでもなく、妊娠だとわかったのは、2020年10月中旬頃のことだった。転居間近の自宅でサカイ引越しセンターのダンボールに囲まれながら、「どうしよう…」とつぶやいた妻の声は、今でも耳に残っている。

僕ら夫婦にとって、妊娠はまさに青天の霹靂だった。なぜなら、子どもができにくい身体なのだと、その1年前に妻に泣きながら打ち明けられていたから。当時はまだ彼氏彼女の関係であったけれど、その事実を二人で受け入れ、「時期が来たら不妊治療をしよう」と話し合い、プロポーズをした。

本来なら、妊娠できたことを真っ先に喜ぶべきだったのかもしれない。少なくとも、僕は嬉しかった。しかし、妊娠したことに青ざめる妻の気持ちもよく理解できた。妻は転職したばかり。僕も翌年1月から慣れ親しんだ仕事と部署が変わり、新規事業の立ち上げに携わることになっていた。お金の心配もあった。ふたりとも、子どもを授かる準備が全くできていなかったのだ。

「嬉しいけど、今じゃない…」

動揺もあっただろうけれど、それは間違いなくそのときの妻の本音だったと思う。僕も同じ気持ちがなかったといえば嘘になる。ただ、二人して後ろ向きな気持ちになっていては、せっかく命を宿してくれた子どもにも申し訳ない。だから努めて明るく振る舞い、まだ半分以上残っていたタバコをゴミ箱に捨てた。そして、それ以外に何が自分にできるか、ない頭で考え始めた。

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育児日記

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