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本物の働き者

義姉が、転んで怪我をして、ギプスをはめてもらい、松葉杖を使うことに  なったのは、5月13日のことだった。それまで2階のベッドで寝ていた  のを、1階の茶の間のソファで寝ることになって、私が布団を下ろしたり  して、整えた。

そして14日朝、私は何十年ぶりに、朝食を作ることになったのだが、それは難しいことではなかったが、雑事が何と多いこと! 雨戸を開ける。新聞を取りに行く。仏壇にお茶を上げ、灯明と線香を上げる。そうだ、1日おきにする洗濯の日でもあった。ところが、洗濯機の前に立っても、ひと月前に買ったばかりの洗濯機を、私は使ったことがなく、義姉に教えてもらわねばならなかった。義姉は家の中では、松葉杖はじゃまっけだと、机や柱や壁、戸棚につかまりながら、洗濯機までたどり着いて、教えてくれた。

茶わん洗い、ゴミ捨て、洗濯物干し、風呂掃除、へや掃除もある。庭木や花鉢の水やりもある。雨の降らない日は、必ず庭に出て、畑と庭木の世話を、義姉はしているのだから。これらの雑用を義姉が毎朝、ずっとやってくれていたのだ、とつくづく有り難みを痛感した。

14日の日曜日は、義姉は1日おとなしかったが、15日の朝から、義姉は早くも朝食作りを手伝い始めた。まだ脚は痛んでいて、右脚には氷を布で包み縛りつけて冷やしているし、左足はギプスのせいで曲げることができないのに、すり足で歩いて、なんとか足がつけるようになって、大丈夫だからと言うのだ。

朝食後の用事が済んで、私はパソコンに向かって翻訳や旅行記などを入力に夢中になっている間、台所から、ずいぶん長く包丁で何かを刻む音が続いているなあと思っていたが、昼時になって、私がお昼を作らなくては、と台所へ行ってみると、義姉は午前中をかけて、たくさんのマーマレードを作り、8個の小瓶に詰めこみ終えていた。

「おねえさん、立ちっぱなしはダメよ、座って休んでいてよ」と言うと、
「庭仕事も畑仕事もできないし、何かしていたいのよ。立てるんだから、 いいの」
そう言って、ランチの用意も手伝ってくれた。

16日の朝、私が6時前に起きると、義姉の方が先に起きていて、以前と同じように、朝食をすっかり準備し終えていた。私は歯医者に行く日なので、朝から出かけて、戻ってみると、義姉は階段をなんとか上って2階へ行ったらしく、私が土曜日に干したまま、雨のため乾かないのを理由に、取りこまないでおいた洗濯物を、全部たたんでくれていた。寒いからランチも準備 したわ、とラーメンにゆで卵をのせて、出してくれた。

17日も朝食を作りながら、洗濯機を回すことも姉がすべてやってくれて、私がしたのは、新聞を取りに行くこと、生ゴミを庭のゴミ入れに入れること、洗濯物を、2階のベランダで干すことくらいのものだった。夕食作りは私の仕事であることは、変わりなく続いているけれど。

義姉が怪我をして、私が家事全てを受け持たなくては、と重荷に感じつつも、こんな時こそ役立たなくてはと覚悟していたのに、ほんとにやったのは、土日だけの2日間だけで、それも教わりながら、手伝ってもらいながらやっていただけだと、わかった。

こんな人だもの尊敬せずにはいられない。ほんとにほんとの働き者なのだ。

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