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『ベスト・エッセイ2021』(毎日読書メモ(428))

北大路公子さんの著作を、図書館のデータベースで検索していたときにヒットした、『ベスト・エッセイ2021』(日本文藝家協会編、光村図書)を読んでみた。
編纂委員 が 角田光代、林 真理子、藤沢 周、堀江敏幸、町田 康、三浦しをん。その年に新聞や雑誌に掲載されたエッセイとか追悼文なんかから選りすぐられた、4-5ページ程度のエッセイが77編収められている。幾つかは新聞や雑誌で読んだ記憶のあるものだった。

アンソロジー的な本は、読みだすときりがないので、普段はあまり手に取らないようにしているので、この『ベスト・エッセイ』も読むのは初めてで、何年前から刊行されているのかも意識したことなかった。
しかし、この2021年版の『ベスト・エッセイ』(2020年に発表されたエッセイが収録されている)は、おそろしいくらいに時代を反映した本となっていた。全員ではないが、多くの人が、新型コロナウイルス感染症の流行により、ライフスタイルが転換したことを様々なアプローチから描いている。2年近くたった今、未知の感染症に翻弄され、戸惑っていた2年前の自分たちを思い出し、恐怖や不安、それに立ち向かおうとする気持ち、過去の感染症の流行を思い返すアプローチなど、それぞれの人が何を思っていたかをある意味懐かしいような気持で読み返す作業となった。
おそらく、ここから数年は、人が感染症とどう向き合い、罹患した人がどのような心持ちになったか(2021年版では感染者の体験談はなかったが、今後はそうしたエッセイも入って来るのではないだろうか)が、語られる機会が多くなることだろう。

勿論、すべての人が新型コロナウィルスにかかわるエッセイを書いている訳ではない。きっかけとなった北大路公子の「よねー予想」(なんと巻頭だった)にはいつも通り脱力しながら笑ったし、ただ1篇、大変長いエッセイだった藤田祐樹「南の島のよくウナギ釣る旧石器人」には目を開かされた。
また、宮沢章夫、瀬戸内寂聴など、故人となった方のエッセイを読み、胸をぐっと摑まれたり。宮沢章夫さんは、自分の病気の話をつぶさに書いているので、まさかそこから1年ちょっとで自分がこの世からいなくなるとまでは思っていなかったのではないだろうか、と考えると切ない。

よく練られた文章を読むと、世界を漫然と眺めているだけではいけないのだ、という気持ちになる。
さらさらと読んだけれど、最後に襟をただされる思いのする読書であった。


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