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毎日読書メモ(68)『拝啓、本が売れません』(額賀澪)

またしても父の本棚から発掘した(図書館で予約している本の順番がなかなか来ないので、目についた本を読んでいる)、額賀澪『拝啓、本が売れません』(文春文庫)を読んだ。元々、KKベストセラーズから出した本を、文春文庫に収めるにあたって、改稿。元々の本には、その直後に刊行された『風に恋う』(文藝春秋、のち文春文庫)の第1章をまるっと掲載していたようだが、文庫版では割愛(ってか『風に恋う』自体がもう文春文庫に落ちている)。本が売れないという状況は、出版不況も問題だと思うが、どちらかというと、デビュー数年目で、初版の出版数が落ちてしまった作家が、自らの危機として、色んなジャンルの識者に話を聞いて、作家自身が何をすることで、売れる本が作れるのかという解決策を導き出そうとする過程の記録。『風に恋う』の1章の全文掲載は、この本の中で作家額賀澪が試行錯誤した結果を読者に提示するため。

『風に恋う』は、わたしが初めて読んだ額賀澪作品だった。掴みどころのない小説だな、と思った記憶があったが、その辺のもやもやした気持ちは、作品発表前に既に『拝啓、本が売れません』の中で分析されていた!

本の表紙にアニメ的イラストが用いられることもあり、ラノベ的に見られることもある額賀作品だが、実はラノベとは一線を画した作品群であることがこの本の中で分析されている。ラノベは、主人公にくっきりしとした個性(キャラの強さ)が付され、その個性により物語を展開し、カタルシスのあるおとしどころが用意され、個性はまた次の作品の狂言回しとなって、多くの場合シリーズ化されるものなのだと、多くのラノベを世に送ってきた敏腕編集者は語る。ほーほーと腑に落ちる。話を聞いている作家額賀澪も、読んでいるわたしも。額賀澪の作品は、結果とか結論でなく、過程が重視されていると思う。

この本ではまず、担当編集者であるKKベストセラーズの編集者ワタナベさんと作家額賀澪が、本が出来るまでの過程を説明し、それから、本を売るために作家と出版社は何が出来るかを探求する旅に出る。話を聞いたのは、ラノベ編集者、書店員、Webコンサルタント、映像デザイナー、ブックデザイナー。出版界以外の場所で、様々な角度から、小説とか、本と付き合っている人たちが、どうすれば本が、小説が売れるのかというヒントをくれる。当然だろう、と思う指摘もあれば、目鱗な指摘もある。勿論王道はない。いや、王道は、とどのつまり、小説そのものが面白いこと、ってことになる(嗚呼)。面白い小説、という前提があって、それをどう、読者に提示するか、という道筋のヒントが色々語られ、興味深い。

小説家が100人いれば、アプローチは100通りあるのだろう。それぞれの強みと弱点があり、それを、編集者や、本づくりに携わる多くの関係者との連携の中で、補正し、よいところを強調するようにつとめ、本が世に出て、それを読者が手に取る。どの本とのめぐり逢いも、そうした丁寧な過程の末にあるのだな。いや、末ではないよね。買った人が読み、またそれについて語ったりすることで(このnoteのように)作品は新たな息吹を得られる可能性がある。こうして発信しなくても、読んだ人の心の底にたまっていく、そのために本はあるんだろう。

この世に読み切れないくらい沢山の本があって、それぞれに、書いた人作った人がいる。誰かに届け、という願いを込めて。


『タスキメシ』を含む、箱根駅伝小説の感想。

『タスキメシ 箱根』の感想。

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