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北大路公子『石の裏にも三年 キミコのダンゴ虫的日常』(毎日読書メモ(298))

北大路公子の読書続く。『石の裏にも三年 キミコのダンゴ虫的日常』(集英社文庫)は、前に読んだ『いやよいやよも旅のうち』(集英社文庫)(感想ここ)同様、「小説すばる」の連載をまとめた本。連載時のタイトルは「日記を書くためだけに生まれてきた」で、2012年12月から2014年12月にかけての日記が時系列に並べられている。紅白歌合戦を見ていて気付いたこととか、東京まで相撲を見に行った話とか、若干、時代を反映した描写などもあるが、基本的には両親と暮らし、夏至が過ぎると、日が短くなっていってしまうことを嘆き、コープの配達の人が半袖で来る限り夏は終わらないのだ、と念を送り、両親をなだめ、共生する日々。夢想するのは隣の家に佐藤浩市が引っ越してくること、アラブの石油王の二十人目の妻になること、というあたりは昔から変わらない。あと、「私は前世、外国の鉄道王の娘として生まれたのだ。しかし、金目当ての男たちにさらわれ、幼くして命を落としてしまった。嘆き悲しんだ両親は私の亡骸の、その細く小さな腕に印をつけて言う、(中略)たとえ何百年後であっても、腕にこの印を持つ人間が現れたら、それはお前だ。会社の資産をすべて譲ろう」って、腕に付いたひっかき傷を眺めながら夢想して、でも線路みたいなひっかき傷じゃなくて鉄道会社名がないと、どこに行ったらいいかわからないよ、ってオチで終わるネタが何回か出てきたのも可笑しかった。東京から来た編集者や友人を迎えて飲み、自分が東京に行って飲む(あくまでも仕事)。静かに暮らしているようで、しっかり社交があり、その合間に親孝行。妹の子どもはいつの間にか11歳になっているよ! 
『いやよいやよも旅のうち』と同じく、ページの上に丹下京子さんのイラストが付いていて、エッセイの情景を愉しく再現しているが、今回も、書き込まれた文字が細かすぎてR眼に辛い! 
巻末に、「小説すばる」に掲載されたご当地座談会「これがリアルな北海道だ!」が収録されている。小路幸也、桜木志乃、乾ルカ、北大路公子の4人で、北海道あるあるについて語る。札幌、江別、釧路在住の作家たちにとって「函館は外国」だそうだ。その感覚はまぁ関東に住んでいるわたしにもなんとなくわかるけど。北海道の人が方言だと気づいていない方言いろいろとか。そして、北海道を象徴する文学は何か、というネタで締めるにあたり、もっとも北海道的なのは北大路公子、という結論に達して座談会が終わっているところに、集英社の北大路公子推しな風情を感じさせる。
山本文緒が出てきては切なくなり、吉田伸子の願いをかなえる力の強さに感銘を受け、新たに頻出するようになったまさきとしかも気になる気になる。

まえがきに書かれているように、世の「ぐでんとした人」を応援する力になっている一冊! 「一回くらいなら」代わりに原稿を書いてくれるはずの編集者元祖K嬢が、早く一回位代筆してくれるといいですね。

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