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【読書】「炎環(えんかん)」永井路子

長いこと図書館の予約カゴ内にあって借りる本は「なぜこの本を読みたかった?」になることがある。もはや思い出せない。この本は「源氏の白旗」に引き続きの鎌倉時代の話。
昭和39年(1964年)、第52回の直木賞受賞作品である。私が生まれる前!
最近受賞する作品は「これで直木賞なんだ」と思うものがあるが、これはさすがの直木賞!歴史上の人物の心理描写なんてそもそも作者の想像でしかないが、苦悩、喜び、怒り等々、まるで見てきたかのように豊かに描かれている。

源頼朝、阿野全成(あのぜんじょう)(源頼朝の異母弟)、梶原景時、北条時政、北条四郎・・・・「あるときは激しく、あるときは陰湿に狡猾に、いのちの炎を燃やしつづけて」権力への道を登ろうとした人々。

ひしめきあい、傷つけあう姿、

それぞれの「いのちの炎」が環を成して歴史を結晶していく凄まじい勢

解説 進藤純孝

4篇からなる連作短篇集だが、私が一番心に残った篇は「黒雪賦」(くろせっぷ)。
鎌倉幕府の初代将軍・源頼朝に尽くし鎌倉幕府初期を支えたが、2代将軍・源頼家時代に失脚した梶原景時のお話。

追い込まれ、一族を率いて上洛するときの景時と息子・景季(かげすえ)のやり取りがいい。

「父上、私は無念です」
「なにがだ」

「なぜ黙っておられます、
なぜあの時御所の前で申開きはなされませんでした」

「徒労ですっ!父上!徒労ではありませぬか。父上はそのために、すべての悪評をひきうけられて・・・」

「それでいいのだ・・・景季」
わしは御所に気に入られようとしてそれをしたのではない。それが武家の世を創るためにしなければならないことだったからだ」
~「徒労かーあるいはそうであったかもしれぬ。が、わしはそれでよいと思っている」
景時はきっと口を閉じた。
生涯を掛けたものから既に容れられなくなった今、景時の瞳は、不気味なほどの静かさを湛えていた。

「炎環」黒雪賦

それがこの時代の安寧のためにと悪評もいわれなき誹謗も受け入れる、なんと潔い人であったのだろう。

永井路子は初読の人だったが、川端康成とも親交のあった方だったのね。永井路子がお初の方は、解説から読まれることをお薦めします。

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