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品質の良い栗=生産者の意識が全て



遠州・和栗プロジェクト事務局の吉政です。

◯JAひがしみのとは…

このJAの管轄である東美濃地区は、中津川市・恵那市で栽培面積が県全体の約50 %にもなる大きな栗生産地域だ。菓子業者も多く、地域産業に栗が深く根付いている。この地域には会員数171戸(令和4年実績)にも及ぶ東美濃栗振興協議会が発足しており、この協議会会員で約142 haもの面積で栗が栽培されている。この中に超特選栗部会という組織があり、協議会出荷の約80 %がこの部会を中心とした超特選栗と呼ばれる栗を契約出荷している。これら取組の鍵となったのは、恵那川上屋の存在が欠かせないのだが、それはまた別記事にて。

東美濃栗振興協議会超特選栗部会部会長の森様

◯超低樹高栽培

さて、現地では部会長を始め、担当のJA職員、県農林事務所の方々に話をしていただいた。園地の見学では、森部会長に案内してもらった。やはり低樹高・超低樹高栽培ということもあり、樹高は低い。栽培も丁寧で、除草管理もしっかりされているそうだ。農薬に関しては元々、岐阜県の基準があったようだが、廃止となり、それでも皆で足並みを揃えて行くために何かしらできないか、ということで恵那川上屋と相談し、新たな基準を設け、化学農薬使用回数年間6回以内(塗布剤・除草剤を除く)だそうだ。他の果樹は2倍以上の回数を散布することが推奨されている場合もあるため、少なく感じる。森部会長も、他の果樹に比べると栗の管理作業は楽であると話していた。多少楽であると聞いてはいたが、実際に名産地の生産者の話を聞くと、不思議と説得力があるものだ。

恵那栗についてのレクチャー 

◯驚きの反収300キロ

森部会長は、東美濃栗振興協議会超特選栗部会部会長を務められており、この地域の栗生産の歴史を知る人物である。経営規模は1.2 haであり、品種構成としては、えな宝来、丹沢、えな宝月、ぽろたん、筑波、美玖里と品種リレーを組み、8月下旬~10月までの期間で収穫されている。反収は300 kgと全国平均の3倍近い。栗栽培にはもちろん精通されており、植付け、仕立て、園地管理等のアドバイスもいただき、今後の活動に生かせる貴重な内容であった。

◯厳しい審査基準

度々登場している超特選栗部会だが、ここで簡単に触れる。上記でも述べた通り、東美濃栗振興協議会の中の組織であり、東美濃地域の栗に関わる組織・人が深く関わりあっている。選果には塩水選を採用しており、生産者らが集り、実施するそうだ。比重が小さいものは浮いてくるためそれは除く。塩水選は種籾等の品質を図る際に行うイメージがあるが、栗の内容の充実度を図るには良い方法だそうだ。外観での選果と比べると、やはり厳しいと感じる。選果だけでなく、この部会に入るためにも厳しい基準が設けられている。剪定法等の栽培管理、過去の出荷実績に基づき推薦され、恵那川上屋・岐阜県・JA・部会の園地審査や面談を経て初めて部会員となれる。それだけ確実に良い栗を作れる人を選び抜いており、良い価格で取引され、良い品物となっているということだろう。このハードルの高さからも栗生産への想いの強さが伝わってくる。

栗団地の案内を受けるメンバー

◯産地の思いを繋ぎ続ける県職員の存在

この東美濃栗振興協議会は県も含まれる大きな取り組みであるが、驚いたのは1人の県職員が異動せずにこの地域に関わり続けていることだ。その県職員である市岡氏は地域のための、ましてや農業で長期的な取り組みをするのであれば、産地の想いを繋ぎ続けれられる人が必要になると語る。携わっていた人が異動し、途切れてしまう取り組みは多い。そのため取り組みで旗を振り続ける人が重要だそうだ。これは、栗だけではなく、どの品目でも言われていることである。特に果樹では、10年、20年と経験を積んだ生産者からも信頼が厚く、周囲を引っ張れる人が必要だという声をよく聞く。一方で組織の一員として3~4年のジョブローテーションで総合的で人間力の高い人材を育成したいという意見があることも確かだろう。このバランスは一部の人間だけでは留まらないことであり、賛否両論あるが、個人的には長く想いを繋げられる人が重要で、だからこそ、この東美濃栗振興協議会が成功している1つの理由であると感じる。

新しく植樹された園地

◯主役は生産者である

また、市岡氏には栗振興のためのアドバイスもいただいた。
・未収益期間+成木化までの約7年間をどう支えるか
・凍害等、植付け時の枯れや、数年後の立ち枯れの対策
・定期的な改植等、計画的な栽培
・品種の選択、特に出口(菓子業者)とのすり合わせは必要
・機械化を前提とした園地選択
・生産者が主役となること
上記6点である。
どれも果樹栽培に関して、直面する問題になるが、特に農家が主役になることは大切であると感じた。栗を栽培する生産者の現在の経営状況、今後の人生設計だけでなく栗栽培に対する想い、地域に対する想い等、複雑な要因が絡んでいる。モノを作り供給するのは生産者であり、その生産者が何のためにどれぐらいやりたいのかは重要だ。

話は尽きない栗談義

◯基盤づくりの必要性

東美濃栗振興協議会、特に特選栗部会は、厳しい基準はあるものの地元の栗生産を支える重要な組織である。しかし、この取り組みは栗、それも良い栗を作る生産体制が整っていたからこそできたことであると感じた。塩水選できる栗がある、栽培のノウハウが生産者・JA職員・県職員にある、生産量・産出額も大きい等、栗を振興するにあたり動きやすい基盤があったことは確かだ。生産体制が整っていない静岡県で、いきなりこのレベルとなるとハードルの高さから新たに始める人は集まらないであろう。それでもやりたい、という人が出てくるのであれば話は別であるが。静岡県で振興するには上記6つに加え、基盤づくりも必要になる。JA、市町村、県とも協力し、進めなければならないことも必ず生じる。静岡県栗産業のため、どの様な形で進められるのか、確実に長い時間は必要となるが、生産者や関係組織の全員と共に歩んで行きたい。

クリートルズ

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