【月光ゲーム】感想と推理供養

有栖川有栖のデビュー作である月光ゲームを読みました。

同著者の作品は、双頭の悪魔だけ読んだことがありましたが、トリックの奇抜さや意外な真相よりも、論理的な解決に重点を置いたクイーンリスペクトの作風が個人的に好みだったので、本作も期待を込めて手に取りました。

読んだ感想としては、期待通りに読みたいものが読めたという感じです。

ただ、正直なところ双頭の悪魔には及ばないなとも思いました。(まあデビュー作と代表作の比較なので仕方がないですが)

とはいえ、殺害現場周辺の些細な違和感から事件を紐解いていく解決編のカタルシスは一級品です。

そしてなんといっても、このシリーズの探偵役である江神二郎さんのキャラクターも魅力の一つです。


ここから先は事件の核心に触れるネタバレを含めた事件の推理の供養を行います。




まず、今回の事件において私が犯人であると推理した登場人物は、ルナこと深沢ルミでした。

私がルナ犯人説を考えた根拠は、主に以下になります。

・凶器の入手性と疑われにくさ
・カメラのフィルムが抜き取られていた原因
・Yのダイイングメッセージの解釈

一つずつ詳しく説明していきます。

まずは凶器の入手性と疑われにくさです。
読者への挑戦の直前の描写で、殺害に用いられた凶器がサリーのナイフであることが判明します。

サリー失踪後、残された荷物は理代とルナのいるテントにありますから、凶器を入手するチャンスはいつでもあります。

ただ、各人のアリバイがほとんど意味をなしていないので、凶器の入手を含め、いつ可能だったかという点について考えるのは意味がありません。

また、疑われにくさというポイントは言うまでもなく足を怪我しているところにあります。
作中でも移動には不自由している描写と周りがそれに気を遣っている描写があるので、容疑者からは外れやすいです。

ただ、読者への挑戦の前の段階で命綱ありとはいえ不安定な足場を一人で渡ったり、夜分に出歩いて月光浴したりと、意外と動けていることも示唆されています。

ここから、実はそこまで深刻な怪我ではなく、本来は杖などつかなくても歩けるのでは?と考えました。

そしてそれこそが次のカメラのフィルムが抜き取られていた原因に直結します。
映されてはまずいもの、それこそが杖無しで歩行しているルナの姿です。
自らを容疑者の輪から外す最大の理由を、現像した瞬間に大きく覆すその写真だけは何としても処理する必要がありました。

そこで、カセットの仕掛けを施して他のメンバーは音の発信源を捜索しにいく中で、自らは足の怪我という大義名分の名の下にキャンプ地に残って証拠の隠滅を図ることができます。

私が犯人を特定するに至った最大のポイントは、この音源捜索の場面で合流しなかった人物がルナだけであったことに起因します。

ただ、真犯人の武も小川から一人で合流しているため、直前の行動に関するアリバイが無いのは同じでしたが、後述のダイイングメッセージのこじつけがしっくりこなかったのでルナに決め打ちしました。結果間違えました。

また、作中でも指摘されていましたが、証拠の隠滅を図る場合カメラそのものを破棄する方がずっと早いというのもあります。

最後にダイイングメッセージについてですが、元来Yを意味したものではなく、二つ目の小文字のyは撹乱のための偽装工作であることは作中でも指摘されていた通りです。

そこで、ルナが犯人である場合この図形は何を意味するのか考えた結果、杖をついた人間の模式図ではないかとこじつけました。
メンバーの中で杖をついているのは噴火によって足を負傷したルナのみです。

ただ、メッセージが掻き消されずにそのまま現場に残っていた以上、殺害時に犯人はメッセージの存在に気づかなかったと考えられます。
そのため、犯人がメッセージの存在に初めて気付いたのは全員での遺体発見時です。

この時ルナは居合わせていませんが、その後アリスたちとダイイングメッセージについて話す場面があるので、「Yと読めるメッセージが残っていた」「しかしYでは手がかりにならない」ことを知り、偽装工作について思いついたとしても不自然はありません。

しかしながら、この根拠には重大な欠陥があります。
わざわざ言うまでもないですが、素直に名前の1文字目を書けばそれだけでルミだと特定が可能だからです。
なんなら深沢のフを書くほうが楽でしょう。

また、前述したルナが杖無しでも歩行できる可能性とも矛盾します。
普通に歩けるのであれば、殺害時に杖を持っていることはまず考えられないので、ダイイングメッセージとして杖をついた人間の模式図を書き残す意味はほぼありません。

そしてそもそも上下逆なので、こじつけも甚だしいです。


以上、ルナ犯人説の推理の供養でした。

反省点としては、とにかくカセットテープ捜索時に単独で合流してきた武への疑いを捨てるのが早すぎたことです。

あのタイミングで自由に一人で動けた人物を疑うという考えはそこまで間違っていなかったと思うのですが、マッチの謎を完全にスルーしたのと、根拠同士が矛盾していることを無視してしまったのも反省点です。

しかしながら、やはりこのタイプの本格ものは良いですね。
とにかく解決編において「は?」とならずに納得して読み進められるので一定のクオリティが担保されているのが読み手としては安心できます。
この学生アリスシリーズはまだ孤島パズル・女王国の城・江神二郎の洞察の三冊が残っているので楽しみは尽きません。

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