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英語ができるようになると人格も価値観も変わる パート1

日本人が英語で交渉ごとに臨んでうまくいかない、あるいは英語で話して理解してもらえない、誤解されるなどの原因をいくつかあげてみました。

私が見ている多くの場合、英語のスピーチ能力が問題になることは滅多にありません。伝えたい気持ちがあり、ある程度の語学力があれば問題はありません。

問題は「日本的な考え」をそのまま英語にしているために理解されないことです。

人間は言語を使って考えています。だから言葉が違えば考え方も価値観も変わります[1]。

英語をはじめとする外国語を身につけるということは、異なる考え方を身につけることと同じであると思ってください。

私も一時期、英語で考えたり話したりしている自分と、日本語でいる自分が二重人格であることに悩んだこともありました。しかしこれはごく自然であることが、心理学や言語学の研究から明らかになっています[2,3]。

ではどういったことが「日本的」で気をつけなければならないのでしょうか。以下のようなシチュエーションを想像して見ましょう。

あなたは日本の会社に勤めています。海外市場開拓をする国際営業担当に抜擢されました。英語にはそれなりに自信はありますが、これまでは国内担当だったので実際にビジネスで英語を使った経験はほとんどありません。前任者から新規ビジネス案件が成立しそうな相手会社をいくつか教えてもらいました。それら全てとアポイントメントをとって海外出張の予定を立てたいと考えています。

「新しく御社の担当になりましたのでご挨拶に伺いたい」のようなアポイントメントのリクエストメールを出していないでしょうか。あるいは前任者からメールを送ってもらって「新しい担当を紹介したい」とアポイントを取ろうとしたり。。。

日本国内だったらこれで全く問題ないはずですが、英語圏では通用しません。大抵の場合、断られるはずです。

それは英語圏では、挨拶は具体的なビジネスではないからです。

実際にミーティングにこぎつけたとしましょう。「今回はとりあえず自社の製品を紹介させていただきたい」とやっていませんか?「とりあえずって何?興味ありません。」と早々にミーティングを切り上げられたということはないでしょうか?

日本の会社だったら、話を聞いてくれるし「また何か面白いものでもあったらお願いします」などと言われると、この先も「お付き合い」が続くと期待でき、実際にそのようにビジネスの付き合いは続くものです。

そして英語圏でのミーティングで「興味ありません」と言った相手にも「今後ともよろしくお願いします」と言っていませんか?

今後も付き合いが続くと思っているのはあなただけで、先方は現時点ではあなたの会社とのビジネスは無いから「付き合い」は時間の無駄なのです。

そもそも英語にはここでいう「付き合い」に相当する言葉がありませんからそういった発想も無いのです。

あるいは具体的にビジネスの話が進展したとします。そこで値段の交渉など難しい要求をつきつけられた場合どのように対応しますか?

”It’s difficult...”などといって終わらせていませんか?これは「難しいです」という意味、つまり「そこまでの値下げは無理、つまりノー」の意味で言っているのでしょうが、これは英語では「難しい」だけで、できるかもしれないしできないかもしれない、つまりあなたにはその場で結論を出す能力もなければ権限もないと受け取られかねません。

これら英語での問題の原因は、日本語モード、日本的文化で考えたまま英語で話しているからです。

私は全て逆の英語の考え方の立場から、日本の商社の方などと話していてこういったことに気付きます。日本の商慣習もそれなりに知っているため、「それではダメなんですよ」ということを伝えるべく物事を白黒はっきりさせることでビジネスをうまく持っていくようにしています。

ここでは、どうすれば英語モードでのビジネスをうまくできるのか、いくつかの大事な点を見ていきます。今回は、その中でも最も需要な「言葉にしないと伝わらない」について詳しく見ていきます。

言葉にしないと伝わらない

英語でのコミュニケーションの問題の原因の多くは、日本語・日本文化がhigh context コミュニケーションであるからです。Contextとは文脈、前後関係、会話の状況などを指します。

日本語や私たち日本の文化は、全てを言葉に表さないのが美德とされ、聞く方も行間を読むことが聡明であるとされています。一を聞いて十を知るとも言われます。これがhigh context言語・文化です。

日本のこのようなhigh context文化が成り立つのは、ほぼ全員が同じ価値観を共有しているからです。

「人と同じようにしなさい」と言われて育てられませんでしたか?良いことをしているのに「出る杭は打たれる」人を見たことはありませんか?だから周囲と同じようにしようという考え方が私たちの根底に根付きます。これは好き嫌いの問題ではなく、そのような文化だということです。

日本では日本人同士の「共通理解の土台」が非常に大きいのです。

だから大事なことをはっきりと発言せずとも、相手がそれを理解してくれているであろうと期待し、聞く方も想像力を働かせて、互いに合意に達したと結論づけることができます。ここで互いに理解に行き違いがあって後で問題になるケースもありますが、それも日本の文化の一部です。

英語圏はかなりのlow contextです。個人主義ですから、他人と同じ価値観を育むという発想がありません。

むしろ人と違うことができるように、自分にしかできないことを見つけるように教育されます。だから「言わなくてもわかる共通理解の土台」が日本と比べると非常に小さい。だから全てを言葉に表さないと伝わらないのです[2]。

日本語と英語のこの違いを理解せず、日本語の感覚のまま英語でコミュニケーションを取ろうとするのが、ビジネスや交渉ごとがうまくいかない最大の原因です。言語能力ではありません。考え方の問題なのです。

ここではビジネスではなく、日本国内の公共の場所での表記の英訳を例として取り上げ、日本的なhigh contextな英語の使い方が引き起こす問題点を見ていきます。英語との文化的違いを感じて欲しいと思います。

Seats are arranged to make larger spaces.
これは電車の中の表記です。関西国際空港と大阪中心部を結ぶ路線のため、大きな荷物を持つ人が多い。そのために特別に長椅子を短くしてあり、ドアの横の割と大きな空間があります。「少しスペースを広げています」と書いてあり、大きな荷物を持っている人、ベビーカーを押している人、単につり革を持って立っている人の絵もあります。

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ここは「荷物置き場専用ではなく誰でも立って居られるが、他の乗客の邪魔にならないように大きな荷物を持った人が荷物を置く場所」という意味と理解できます。

さらに行間を読めば「大きな荷物を持っている人は、この広いスペースに居てください」という意味とも取れます。

面白いのはその英訳です。

”Seats are arranged to make larger spaces.”とあります。直訳ですね。普通に英語の頭で読むと、「ふーんそうか、なるほどここは椅子がなくて広いなあ」となってはい終わり。

絵を見ても「まあ荷物もベビーカーもあるから広くしているんだな」としか理解できません。

英語では日本のように行間を裏を読む習慣がありませんから、伝えたいことは直接伝えるべきです。この場合なら、

”This space is prioritized for the passengers with luggages or stroller.” (このスペースは大きな荷物やベビーカーを持っている人の優先場所です)と書くべきであろう。あるいはもっとストレートに

”Store large luggages here.”(大きな荷物はここに置いてください)と書いても良いくらいです。

Please make sure that your luggage is not disturbing other passengers.
同電車内では「お手持ちの荷物は、まわりのお客様の迷惑にならないようお願いいたします」というメッセージがLCDディスプレイにも車内放送でも繰り返し流れていました。

これも行間を読めば「大きな荷物を持っている人は、そうでない人から見れば邪魔なので、荷物を自分の体に近づけて管理しましょう」という意味になる。それ以上に「迷惑にならない」方法はないのだから。ところがこの英訳は、

”Please make sure that your luggage is not disturbing other passengers.”とあります。これも直訳です。

まずこの“disturb”が問題。これは元の日本語の「迷惑」というよりは「妨害」とか「邪魔」という意味です。

つまりこの英語を読んだほとんどの人は「自分の荷物は誰の妨害にも邪魔にもなっていない」と思うはずですから、それ以上の行動に影響しないはずです。だから日本人からすれば外国人はマナーが悪い、と見えるのです。これはむしろ鉄道会社側のコミュニケーションの問題ですね。

日本人が日本語を読んで理解して周囲に気を使うような行動を求めるのなら、英語では、

”Hold your luggages close to yourself, or use the dedicated luggage storage space.”(大きな荷物は体にくっつけて保持するか、荷物置き専用スペースを使用してください)と書くべきです。日本ではそこまで求められているのだということが伝わるでしょう。

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Please be careful...
“Please be careful...”という英語もよく見かけますが、これも日本的な婉曲表現だと思います。

例えばホテルの駐車場出入り口近くの「車にご注意ください」ならば、”Please be careful to traffic.”ではなく、

”Caution. Be aware of vehicles.”(注意。車に気をつけよ」あるいは、

”Watch for traffic.”(交通をよく見よ)と書くべきです。

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公衆トイレなどによくある「貴重品などの置き忘れにご注意ください」の英訳が、

”Please be careful to forget valuables.”となっています。

ここはストレートに”Don’t leave your valuables.”(貴重品を置き忘れるな)でいいのです。

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ちなみにこれら”please be careful...”ですが、そもそもそのあとに”to” +名詞やましてや”to” +動詞はおかしいですね。

Do not touch doubtful things.
これも駅です。「不審物を発見した際は、お手をふれずに駅係員・乗務員までご連絡ください。」となっていますが英語では”Do not touch doubtful things.”(疑わしい物には触れるな)だけです。「報告してください」が抜けています。英語でははっきりと

”Report suspecious bags to attendants.”(怪しい物は係員に報告してください)と書くべきです。

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いずれも、日本のhigh contextな考え方のままで英語にしたことによる、おかしな英語、意図が伝わらない英語の例です。

英語はどんな場合でも、すべてを言葉にして説明しなければなりません。

日本語のように「行間を読む」ことも「一を聞いて十を知る」習慣もなければ、共通理解の土台も無いからです。

最後に、英語から外れますが、中国語とアラブ語もhigh context言語圏です。日本とは「共通理解の土台」そのものが異なります。彼らと理解し合うには、双方がしつこいくらいに言葉に表して考えを伝えなければならないということです。

つづきパート2はこちら

Reference
[1] Boroditsky, R., How Does Our Language Shape The Way We Think? Edge, Jun. 11, 2009
[2] Boroditsky, L, How Language Shapes Thought, Scientific American, 304 (2011) 62-65
[3] Grosjean, F., Change of Language, Change of Personality? Psychology Today, Nov. 1, 2011
[4] Hall, E.T. (1979). Beyond Culture. New York: Dubleday Dell Publishing

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