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はははの話/うっふんあはん


わたし(えりぱんなつこ)が、胃痛から仕事を辞めて、田舎に住む祖母と母と暮らしていたときの話を書いています。



 祖母と母とわたしは、こたつテーブルを囲んでごはんを食べていた。祖母が起き上がれなくなるまで、毎日続いたことだ。
ごはんの時間になると、それぞれ専用の茶碗とお箸をテーブルに並べ、それぞれの定位置座いすに座る。祖母はいつも(夏以外は)、10色の毛糸で編まれた三角形のブランケットを肩がけしていた。手作りなのか温かみがあって、わたしが祖母と言ったら…で真っ先に思い浮かぶ愛用品だ。今はプラスチックケースに仕舞われている。それぞれ専用の茶碗と祖母の肩がけブランケット。祖母と母と暮らしていた日々を思い出すときに欠かせない。
テレビを見ながらあーだこーだ言って、祖母の言葉に笑って、3人揃って食べる時間はおだやかそのものだった。


その日がいつもと違っていたとしたら、私の前にだけ箸置きを置いていたことだ。


実家に住んでいたころを思い返してみても、我が家は箸置きを使う家庭ではなかった。それなのに、わたしは一人暮らしをするようになってから箸置きのかわいさに気づき、興味を持つようになった。雑貨屋や百円均一に行くと、つい箸置きを探してしまうし、かわいい箸置きを見つけると買ってしまいそうになった。一時期は、躊躇なく買い求めたりもした。使うよりも、眺めて所有欲を満たすために買っていたようなもので、レンコンや三色団子、どうぶつ、のし紙を模したものなどをコレクションしていた。


その日は、めっきり箸置かなくなったわたしが箸置きを思い出し、久しぶりに使いたくなったのだった。箸置きを仕舞い込んでいる袋を漁りながら、これもあったか、こんなのもあったかと懐かしんでいると、目当てのものは見つかった。お土産屋さんが立ち並ぶ通りの箸屋さんで売っていたものだ。これは!と即決したお気に入り。
わたしは自分の前に箸置きを置いて、それぞれ専用の茶碗とお箸をテーブルに並べていった。



 座いすに座った祖母が、見たことがないわたしの箸置きを発見し、じっと見つめていた。
おっ、気づいてる。すごーい。
わたしは何十歳も離れている祖母を、子どもを見守るような目で見るようになっていた。

祖母はじーっと箸置きを見ている。
じーっと見ながら、ひとこと呟いた。

「みせてる」

呟いた後は興味を失くしたかのように、テレビのほうを向いていた。

みせてる……?

何のことだろうと母の顔を見たが、母もキョトンとしている。なんのこっちゃ、とわたしは箸置きを見つめた。


箸置きのカエルは地面に後ろ手をつき、長い足を膝からきれいに曲げている。曲げられた足は、なんともいえない曲線と色つやを纏っている。そして、目はイッちゃっている。


頭でぐるぐると考える。
「みせてる」って、もしかして?
うわーそういうこと!?



わたしたちはずっと見せられていたのだ。
カエルちゃんとっておきの、グラビアポーズを。


母と目が合うと、ぶはぁと大笑いした。




目がイッちゃっているカエル
アニメ『ジャムとピペ』みたいでかわいい





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