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カモシカの脚サイズ

仕事柄腰を痛めることが多々ある。
ぎっくり腰になってしまったら悲惨で、最低三日は寝たきりになってしまうのだ。そうなれば自力で寝返りも打てなくなる。
 
ありがたいことに、ぎっくり腰になる前には前兆がある。その腰痛は、動くには辛いけれど動けないわけではない程度の痛みだ。
 
『あなたホントに気を付けないと近々ぎっくり腰になるわよ』
 
という警告期。そこでどう対処するかが分かれ目だ。
 
私は先週から警告期に入っていた。
腰にコルセットを巻き、腰の機嫌をうかがいながら、ギリギリのところで体力仕事を続けた。
おまけに左膝までが痛みだす始末。
左膝はただ立っているだけで痛みを伴い、歩けば激痛も伴った。
 
なんてこった。
腰を庇うとき、膝が便りになるというのにこの有り様だ。
私は何とかせねばと、ドラッグストアーで膝サポーターを購入した。Mサイズだ。
 
それを膝に嵌めてみて、キツイ! しまった! と後悔した。パッケージもバッキバキにして開封したから返品もできない。1500円も払って買ったのに、Mサイズでは私の足はボンレスハムのようになってしまうのだ。
 
ところでそれってひどいんじゃないか?
私はデブじゃない。
健康診断も毎年Aランク。肥満度は痩せと普通の境界線寄りの痩せ側だ。服を購入するのも余裕を持ってMサイズを買えば間違いないのに。

なぜ膝サポーターのMサイズだとボンレスハムになってしまうのか。それほど私の脚は太いというのか。それを再確認させられた私は不愉快になった。
 
それでも膝の痛みは軽減されているように感じられたので、サポーターの上下を折り曲げ二重にし、着圧が膝に集中するようにし、しばらくMサイズを嵌めていたのだ。
するとどうしたことだろう。私の脚はドクンドクンと脈打つ感覚がし、足を見下ろせば青く血管が浮き出ているじゃないか。
 
ダメだダメダメ! 血が止まる!
 
私はMサイズの膝サポーターを引き剥がし、
「くそう!」と罵りながら床へと叩きつけた。

1500円が勿体ない。
悔しくて悲しくて、やりきれなかった。
 
娘が、「どうしたの?」と言ってやってきた。
短パンの先からは、スラッとしたカモシカのような細い足が真っ直ぐと伸びている。
 
いいな~と、私はいつも娘の脚を見て思う。
モデルのような細くて長い脚。本当に私のDNAを受け継いでいるのかと不思議に思う。
 
「この膝サポーター、せっかく買ったのに細すぎるの。私がつけるとボンレスハムになるの。だから悔しくて。あなた代わりにつけてくれない?」
 
「え? わたし膝なんて痛くないよ?」
 
「うん。知ってる。でもサイズ確認したいの。サポーター界のMサイズの基準を知りたいの」
 
娘は膝サポーターを装着した。
カモシカのような細く伸びた脚に、Mサイズのサポーターはピタリとフィットしたのだった。
 
なるほどと思った。
サポーター界のMサイズは、モデル並みのカモシカの脚サイズなのだと納得した。ならばサポーターのサイズ表記はもっと分かりやすく、
 
『Mサイズ(カモシカのような脚サイズ)』
 
と明記してほしいものだ。
じゃあ私は何サイズを買えばいいのか。
ひょっとするとLサイズ、いや、LLサイズなのかもしれない。
ああ面白くない。不愉快だ。
もう二度と膝サポーターなんて買うものか。
腰のメンテナンス混みで、はりきゅうマッサージを予約しよう。 

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