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美人スライム

 娘が休校中に極めた物がある。
 スライム作りだ。
 初めて作った時は、スライムとは言えない物体ができてしまった。
 全く伸びなく、伸ばそうとするとブチブチと切れてしまう物体だ。
 材料は洗濯のり、ホウ砂、お湯、お好みの色の絵の具だ。キラキラさが欲しかったら、100均で手に入れたラメを入れたりする。
 娘は動画検索などをし、どの材料をどれだけ入れれば良いのかを試行錯誤させ、今ではそれはそれは完璧なスライムが作れるようになった。
 私は制作済みのスライムが入れられるよう、いくつかの透明の瓶を用意しておいた。キレイに色付いたスライムを、娘は瓶にいれてコレクションしている。凄いのは、日にちが経ったら伸びが悪くなりそうなのだが、いつまでもビヨーンと伸びが抜群でキープさせているところだ。
 色とりどりのスライムの瓶がとても綺麗だ。
 毎朝、どんな気分か直感で選んだりして、私も楽しませてもらっている。
 確かに綺麗で癒されるが、作りすぎだ。
 材料の中にシェービングフォームを入れると、ふわふわのスライムができるという事を知ってから、色々な物の、本来の用途とは別の使い方をしすぎなのだ。
 久々に髭を剃りたかった高2の息子に、
「明日学校だから、少しは残しといてくれよ」
 と忠告されていたのに、娘は構わず息子のシェービングフォームを全部を使いきってしまったのだ。
 仕方がなく、スライム用と息子用の2本のシェービングフォームを買うことにした。
 娘のスライム作りは進化している。
 しているのだが、飽きっぽい娘がハマってしまったらしつこいのだ。
 今度は、
「お母さん、化粧品使ってもいい?」
 なんて言い出した。
「なんでよ?」
 小4が化粧をするのか? と問うと、
「口紅をスライムに使いたいの」
 と言うのだ。
 でた。娘の冒険心。
 私は断った。
 どれだけの量が必要だと言うのだろう。
「勿体ない。絵の具でいいじゃない」
 絵の具では繊細な色合いが出ないのだという。
 あなたは芸術家かよ、とツッコミたくなる。
 絵の具だけでは、もう娘の欲求は満たされないようで、仕方なく蛍光ペンやらを使いだした。
 見ていてなんか勿体ないと思ってしまう。
 職場の勤務表の私の名前の欄に、蛍光ペンでマークして、大切な日とか、その日一緒に働くメンバーとか、行事とか、とういったものを分かりやすくする為に買った蛍光ペンなのに・・・。
「お母さん、この口紅は全然使ってないよね?」
 娘からさらに怖い質問を受けた。
 それは仕事には向かないからしないだけだ。
 最近では出かける機会もない。出かけたとしてもマスクを付けるから、ベースメイクとアイメイクしか頑張らないのだ。
「お母さんよく言うよね。しばらく使ってないものはいらないものと同じだって。さっさと処分しなさいって」
 ニヤリと笑う。
 怖いな~。 怖いよ~。
 これは、私が仕事に行っている間に私の大切な口紅をちょろまかそうという企みが見られて恐ろしい。
 私は出勤前、メイク道具の中の口紅を全て別ポーチに避難させた。
 使われないよう職場のロッカーにでも隠しておこうと、リスク回避をしたのだ。
 その時、大分前に買ったプチプラのリップに目がいった。
 私のイメージには合わなくて、あまり使っていなかったものだ。
 それだけはポーチに入れなかった。
「これ、使わないし、すてようかな~」
 なんて言いながら、その口紅をテーブルの上に置き、家を出た。
 スライム作りに使っていいよ、とはなんか言いたくなかったのだ。だって、口紅が口紅としてこの世に存在してきたと言うのに、まさかスライムになるとは口紅もビックリなんじゃないかと思ったのだ。
 おかしなこだわりかもしれないが、特にメイク品に関しては無情になれないのだ。

 夜帰ってきて、増えたスライムの瓶を見ると、何とも美しい透明感のある紅色のスライムが飾られてあった。
「新作、めっちゃきれいな色だね~」
 私はそのスライムに見とれてしまった。
 娘は嬉しそうに、
「美人スライムだよ」
 と言った。
 もしかして、このスライム達、全部に名前があるのだろうか。
 あの、私にほとんど使われなかった口紅は、娘の手によって綺麗なスライムに生まれ変わり、日の目を見られ、意外と幸せなのかもしれない。















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