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【読書日記66】『暮らしっく』

2023年のお正月読書は「積読山の切り崩しから!」と決意し、目に付いたタイトルから読んでいます。その第1弾がこちら、高橋久美子さんの『暮らしっく』(扶桑社)です。

高橋久美子さんのエッセイは、彼女の生活と地続き。だから、彼女の感じる手触りが、私の日常にある手触りとダイレクトに繋がります。読んでいくうちに、自分のアンテナがじわじわと広がり、感度があがっていく感覚がとても心地よいのです。

ふいにくすくすしたり、「ふむ」と感じ入ったり。そして、読んでいる間に、知らず知らず私自身の日々を隣に置いています。そのなかで、ちょっとほこりをかぶっていたり、蔭に隠れていたりするモノゴトに気づくのです。

■「私らしい生活」を手繰り寄せる

今回読んだ『暮らしっく』は、タイトル通り、彼女の「古風(=クラシック)な暮らし」を綴ったものです。

古い一軒家、手作り野菜とご飯、捨てずに物々交換、東京と故郷・愛媛を行き来する二拠点生活……
丁寧だけど丁寧じゃない。飾らない、無理しない。

この本で素敵だなと思うのは、高橋さんのなさっているのが、「丁寧な暮らし」ではなく、「私らしい生活」であるところなんです。

「丁寧な暮らしをココロガケると、こんな風にいいことがありますよ」と言う本はたくさんあります。でも、普段、雑を絵に描いたような生活に埋没する私には、ちょっとしんどいんですよね。

もちろん、そういう生活に憧れる気持ちもありますし、実践すれば今までとは違う扉が開く気もする。でも、一方で、それらを訥々と読んでいると、自分の日常をまるごと否定されてるような気持ちにもなるんですよね。「いや、それ雑すぎやろ」って。被害妄想も甚だしいのは重々承知しているのですが。うん。だから、正直に言うと、そういう類の本は少し苦手なんです。

今回読んだ『暮らしっく』は、一見、そういった「丁寧な暮らし」が語られているように見えます。でも、そうじゃないんです。

『暮らしっく』で描かれるのは、高橋さんご自身が「私らしい生活」を軸にして、衣食住なあれこれ。

それらを、それこそ「丁寧に」一つずつ選んでいった結果なんですよね。そして、そこから起こる変化を心から楽しみ、味わい尽くす。すると、連鎖して次の扉が開いていく。それがまた、高橋さんの「私らしい生活」の世界を押し広げていくんです。

その過程が彼女自身の言葉で紡がれていく。だから、私自身の日常を隣に置いて、じんわり読むことができるのです。

■衣食住に愛を込める

このエッセイを読んでいて、もう一つ思うのが、「生活=衣食住」ということ。「何を当たり前なことを?」と思われそうですが。でも、「衣」「食」「住」全部に、同等の愛とか思いを詰め込んで生きてくのって、現代ではかなり難しいことだと思うんですよね。

お金や時間、さらに言えば体力や感情だって、実は限りある資源で。配分の割合を加減しながら、私たちは生きてる。生活も大事だけど、趣味だって生き延びるのには必須アイテムで。しかも、現代はほかにも刺激の強い、楽しそうなモノで飽和している。目を奪われる。

そうすると、私などが典型なのですが、「衣食住」のどれかが疎かになっちゃうんです。私の場合は、どれかと言うより、「衣」と「住」がダメダメで(笑)3分の2が疎かというていたらく。

メンタルが落ちていて選べなかったのもありますが、未だに書店勤めしてたときの恰好で生活してますし。「住」も心地よいのは、寝床だけ。

でもね。

本書を読んでいて、それが私自身が選び取った「衣食住」であるなら、それでいいのかもな、と。もちろん、改善すべき点は山ほどありますが(笑) 一度、「生活=衣食住」を細やかに点検してみて。自分の居心地にも感度を振り向けて。それでOKが出せたなら、それで十分「私らしい生活」なのかもな、と。そんなことを思ったのです。

■まとめ

『暮らしっく』は、著者である高橋久美子さんの暮らしを綴ったエッセイです。そこで語られるのは、彼女自身が一つずつ選んだ衣食住なあれこれ。そして、その過程でこぼれくる嬉しさや広がってく世界が、日々の豊かさを惜しみなくお裾分けしてくれます。

何かに追われて、肩に力が入り続けて、ちょっとため息をつきたくなった時、すっごくおすすめ。ぬくぬくと、甘めのココアを飲みながら、ぜひ。

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