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【読書日記58】『一生のお願い』

どこかへ出かけるとき
いちばん時間をかけるのが
「本の選定」です。
どこの時間で読めるか、
どんな旅にしたいのか。
そんなことをつらつらと考え合わせ
持って行く本をじっくり選びます。

そして今回は、
内容に没入してしまわず
思考がぐるぐるしない
軽めのエッセイにしようと
コチラの本を選んだのでした。

■『一生のお願い』について

□高橋久美子著
□筑摩書房
□2022年8月
□1500円+tax

少しくすんだ浅葱色で描かれる
版画絵が印象的な本書。
カバー紙の質感も
ちょっと不思議なつるつる感があり
実は、ずっと気になっていた本でした。
そして、何ヶ月か前に、
不意に書店で目が合い購入。
今回、満を持して
一緒に旅をすることにしたのでした。

■日常にあるもの

家事をしながら、お風呂に入りながら、
植物の剪定をしながら、
やっぱり私の言葉は生活と地続きだ。
繰り返しの日々で
物事の根っこに気づけたときに出てくる。
…(中略)…どうしたって心にないことは書けない。
同書156~157頁より引用

高橋さんご自身の生活にあるモノやコト、
そこから湧き起こるキモチを
丁寧に掬いとって、心ゆくまで愛でて
大切にコトバで表して
再び元の場所にそっと戻す。
彼女の10年間をまとめた本書は
そんな文章たちで溢れています。

そこにある、彼女のやさしいまなざし。
当たり前にあると思い込んでいるモノは
ほんとは当たり前なんかじゃなくて
一つずつが
キラキラした輝きを持つ「特別」なのだと
そう教えてくれるのです。

今回、私はこの本を
行きの在来線のなかで
ぽやぽやと読んでいました。
実はこうして記事にすることは考えてなくて
ただぼぉ~っと活字に耽溺していたんです。

そしたらね。

高橋さんの文章から
まなざしのやさしさとか細やかさとかが
ふわっと伝わってきて。
移動している時間や
様々に見たり聞いたりする感覚が
いつもよりずっとやわらかくなるのを
如実に感じたのです。
何より、
行く先々で湧いてくる感興を細やかに拾えたり
いつもよりも広く深く想像を飛ばせたり。

内容がどうの、というよりは
高橋さんの感じ方の穏やかさが
私に寄りそって、ココロを補ってくれたような
そんな感覚を持ったのです。

しかも、それは
読み始めた行きの電車からふんわりとあって。
この旅にこの本を持ってきて
正解だったなとひっそり喜んでいたのでした。

■書くということ

流れていく日常を切り取って
押し花にしたのがこの本です。
もっと特別な出来事もあったはずなのに
書かずにはいられなかった
明日には消えてしまいそうな気持ち。
書くということは
何を見つめて生きるかなんだと
10年を振り返りながら思いました。
本書帯より引用

絵本の翻訳、作詞、エッセイ、小説、詩。
高橋さんはいろいろなものを書いています。
書くことは生きること。
彼女の活動を見ていると
そんな言葉まで浮かんできます。

また、そうした思いに溢れた文章を読むと
書くことを生業にしようとしている私も
「書くこと」について考えることを
いつの間にか促されます。

私にとって「書く」とは何か。

今はひたすら楽しくて書いていますが
一方では
書かずにはいられない衝動もあるんです。

文章というカタチで
自分のなかに在るものたちを
きゅいっと引っ張り出す。
それをし続けていないと
何かが固まってへばりついて、澱むような。
そんな感覚すらあるんです。

もちろん、この本、こんなに面白かったの!
そんな風に、本を紹介したい気持ちも
ちゃんとあるんです。
でも、それ以上に
本を読むことで動かされたキモチへ
文字というカタチを与えておかないと
何かを掴み損ねてしまう気がして。
それがどこかに
澱んでしまうような感覚があって。
本を読むたびに、いつも
書かずにはいられない衝動に駆られるんです。

もしかすると、それは
今の私だからかもしれない。

でも、その時々で
自分の「書く」行為に目を向けてみる。
あるいは、自分の書くものから
それを客観的に推し量ってみる。
「書く」ということの意味に
正解なんかなくて、
それらを繰り返していくだけなのかなと
高橋さんのこのエッセイを読んで
不意に思い、同時に心強さも得たのでした。

■まとめ

全力でアクティブな自分も
絶好調に引き籠もる自分も
丸ごと全部引き受けて言葉にする。
その潔さや「特別感」が
読む側の日常のキラキラ度も
ほんのり上げてくれるエッセイ集でした。
お部屋でぬくぬくしつつ
蜜柑を食べながら、ぜひ。

■こちらもおススメ

・高橋久美子『旅を栖とす』角川書店

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