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【読書日記50】『家康と三方原合戦』

来年1月から始まる大河ドラマ
『どうする家康』で時代考証をされる
平山優先生の新刊が出ていたので
読んでみました。

■『新説 家康と三方原合戦
  生涯唯一の大敗を読み解く』
■平山優著
■NHK出版新書
■2022年11月
■880円+tax

今川氏滅亡から開戦の経緯、
徳川・織田軍の敗北、信玄の死まで
戦国史を変えた合戦の真相とは?

■とにかく読みやすい

旅行に行くとき、必ず何冊か
本を持っていきます。
全行程で読める時間を検索し
なるべく活字がきれないように
本を選ぶのです。
今回は、岡山・高知で
長時間の電車移動がありましたから
移動時間はあるけれど
この新書は歴史系だし、
読むのに時間かかるだろうと
高をくくっていたんです。
そしたら。

まさかの行きの新幹線だけで
読み切れたよね。

これには本当に驚きました。
面白すぎて
ページを捲る手がとまらなかったんです。
「うわぁ、どうなる家康⁈」
大河ドラマのタイトルを
意図せず心の中で呟きながら、一気読み!
でも、論証には一つも手抜かりがないのです

私は、歴史系のものを読む時、
どちらかというと
研究者の書かれる読み物を好みます。
しかも、手堅く論証される方のものを。
丁寧に誠実に史料を読み込み
この史料からはココまでは言えるけれど
それ以降は推測の域を出ない、と
きっちりお伝えになる読み物を
素敵だと思うのです。

これはもしかすると
私自身が歴史史料を用いる研究を
大学院の頃にしていたからかも知れません。
(『大鏡』の研究をしていました)

そして、今回読んだ平山先生のご著書は
その方向にあるモノばかりなのです。
さらに、めちゃくちゃ読みやすい。
これはものっそい有難いことだと思うのです。

■結末は知っているのに

本書は、元亀3年(1572)に起き
若き徳川家康に絶体絶命の危機をもたらした
「三方原合戦」
の真相と
その歴史的意義に迫っていきます。

ワタクシは、自他共に認める
歴史ヲタクの戦国音痴です。
(推しさまは信長さまなのに…)
「三方原合戦」と聞くと
徳川家康が武田信玄に
コテンパンにやられた戦で
「しかみ像」のもとになった、くらいの
浅い知識しか持っていません。

岡崎公園HPより拝借

でも、実は
この戦自体、分からないことが多いらしく。

・なにが開戦のきっかけだったのか
・どこが主戦場だったのか

など、合戦においてわりと大事な項目が
不明なのだとか。
また、この戦自体、言及する史料が少なく
その地域の伝承に頼って
類推していた側面も大きいのだそうです。

本書は、そういった曖昧な部分を
史料を徹底して読み直し
先行研究も踏まえたうえで
タイトルの通り、「新説」を示していきます。

そうすると、際立つのが
信玄の老獪さなんです。

徳川家康は若い頃からかなり戦上手です。
視野の広さだったり
決断のしどころの見極めだったりが
図抜けている人なんです。
でも、信玄は
その家康の何枚も上手で。
信長が援軍に来られないように押さえつつ
そのタイミングで
家康が討って出なければ
どうしようもない!という状況を
要所に全部に抜かりなく布石をうつことで
しかも、浜松城をダイレクトに、ではなく
その命綱を断ち切る方向
がっちりと創り出すのです。

このあたり
合戦の結末は知っているのに
めちゃくちゃ緻密にゴリ押してく
信玄の容赦のなさ

ぞくぞくするほど面白くて。
「うわぁ、どうする家康⁈」と
推理小説を読むかのように
ずんずんと読み進めたのでした。

■知力・体力・時の運

私など、歴史の素人ですから
たとえば「三方原合戦」なら
それ単体のみで考えてしまいます。
でも、歴史っていうのは流れているもので
そこまであった戦いや調略、果ては日常までが
すべて絡み合った上で、
合戦は起こるものなのだと
本書を読んで、改めて認識しました。

そして、何より徳川家康の運の良さ

もちろん、家康のもつ力量は図抜けています。
でも、きっと
後世に全国的に名を残す人たちも
ある一定以上の力量は持っていたと思うんです。

じゃあ、その中で何が家康を天下人にしたのか。

それって、「知力・体力・時の運」のうち
「時の運」だったと思うのです

たとえば、この三方原合戦。
その結末は信玄の死で終わります。
命からがら浜松城へ逃げ帰った家康に
信玄はさらに追い打ちを掛けるのです。
そして、それが完遂されれば
浜松城は完全に「詰み」でした。
でも、その途中で信玄は死を迎える。
そして、何より
その信玄の作戦を
続行する/続行できるものはいなかった。
おかげで、家康は生き延び、天下へ向かう。

このとき、信玄が作戦をやりきっていたら
もしかすると、
家康は天下人ではなかったかもしれない。
そう考えると、何かを成し遂げるには
「時の運」をも味方につける何かが
必要なのだなとしみじみ思ったのでした。

■まとめ

来年の大河ドラマの予習に、
あるいは、徳川家康をさらに知るのに
本書はものっそいおススメです。
年末のお供にぜひ。

■こちらもおススメ

未読ですが、
このお二人のご著書なら間違いないです。

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