虹の根元には

目の前で揺れる百合を眺める。百合の花が咲く、その瞬間を私は見たことがない。否、そんな瞬間は存在しない。
虹の根元には幸せがあると言われても、決して虹の根元にはたどり着けないように。

たしか、そんなことを考えてあなたに虹の話をしたのだと思う。
子供の頃、虹を見つけては幸せがあると言われる麓を目指して走り回り、なぜかいつもたどり着けない、と思ってきたがそもそも虹の根元は存在しないらしい。遠くじゃなきゃ虹は認識できない上、空から見たら虹は円形なのだという。
世界には二通りの人がいると思う。「ならば決して虹の麓にはたどり着けないではないか」と思う人と、「それなら今私がいるところも、遠く離れた誰かが見たら虹の麓かもしれないな」と思う人。
だったら私は後者でいたい。世の中捨てたもんじゃないよねって思いたい。
しかし、どうやら世界には三通り目の人がいたらしい。あなたはこの虹の話をしたら、こう言ったのだ。
「追い求めること自体が幸せって教えてくれてんだね。」と。

「え?」
「だって、虹の根元に幸せがあると信じて虹の根元を探してる時が、1番幸せでしょ?この言い伝えが広まれば、知った人がみんな幸せを味わえるじゃん。だから、“幸せを追い求めてる時が幸せだ”ってことを知ってる人が広めてくれたんじゃないのかなあ。」

すごいと思った。単純にすごい人だと思った。この人についていきたいと思った瞬間だった。

あの時の彼の瞳の、まさしく光を受けた水のような輝きは、忘れられそうにない。そんなことを思いながらあなたに百合の花を手向ける。

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