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【パンの科学】職人技が光るパン作りの極意

前回はパンの食感を決める気泡構造について紹介しましたね。

今回は、いかに職人や製パンメーカーの技術者が工夫を凝らしてパンの食感をコントロールしているのか見ていきます。


気泡数のコントロール

前回のおさらいですが、パンの食感は気泡の数や、気泡膜(グルテン層)の厚さによって決まります。

気泡が多く気泡膜が薄いとふわふわした食感になり、逆に気泡が少なく気泡膜が厚いとぎっしりもっちりした歯ごたえのある食感になります。

職人たちは、このパン内部の気泡構造を制御することで、同じ食パンであっても異なる食感を生み出すことができるというわけです。

パン作りでは原料を軽量後ミキシングと呼ばれる工程があります。この工程ではパンの原料となる小麦粉や水などを混ぜてこねていきます。

ミキシングはパン作りにおいて非常に重要な工程になり、ここで気泡構造をコントロールすることができます。

気泡の原点はミキシング時の生地に分散した空気と言われています。パン生地内の酵母はその気泡中の酸素を使って発酵しガスを生み出すからです。

そのためミキシングの際にどのように空気を分散させるかで気泡構造が決まり最終的な食感につながります。ミキシングの程度が高く気泡が多いと焼き上がりはふわふわとした食感になるんですね。

フランスパンでは生地がつながる状態でミキシングを止めますが、中種法を使った食パンでは生地が膜状に伸びるまでミキシングをします。この違いが、生地内部への空気の分散に影響を与えるわけですね。

参考文献より引用

成形時の生地の薄層化と粘弾性

発酵が始まると二酸化炭素ガスが気泡核(空気)へ気化が始まります。時間とともに気泡が成長していくわけですが、このときパンチをしたり丸めたりといった成形加工を行います。

ここではパン内部の骨格を作るグルテンの弾性化を進めていきます。気泡を捻じり分割することで気泡を分散していきます。

気泡数の増加はパンチやねじりなどの外力が大きく加わる成形工程で最も進み、生地をどれだけ薄層化するかで気泡をコントロールすることができます。

また生地に含まれるグルテンの弾性も気泡の形成に強く影響します。グルテンはまさにパン内部の骨格に関わるところです。いわば気泡を支える骨格と言ってもいいでしょう。

たとえば麺棒で生地を伸ばす際に、気泡も一緒に伸ばされます。
グルテンの弾性が高いほど気泡形状を維持して膨張するため、引きが強いツイストドーナッツのような繊維感が生まれます。

一方でグルテンの弾性が低いと気泡は球体に戻るように膨張するため、歯切れのよいぼろっと感のあるハンバーガーのバンズのような触感になります。
このようにグルテンの弾性そのものが気泡の形状に影響を与え、私たちの食感につながるのです。

最後に

今回はパン職人の技が光るミキシングの工程でいかに空気を分散させるかがふわふわ感を決めるという話をしました。素人がレシピ通りに作ってもなかなか売り物のようなパンが造れないのも納得ですね。

そこには材料や手順以上に目には見えにくい微細な違いが生まれるというわけです。

混錬、分散、焼成という一連の流れは、パン作りだけでなく材料作製にも通じることがあります。材料作りでも同様に目には見えない微細な違いが最終的な製品の機能に大きな影響を与えます。このような類似点を考えながらパン作りを見ていくのもまた面白いかもしれませんね。

さて、次回は具体的な食パン、フランスパン、ベーグルの違いを見てみようと思います。

まさに科学と料理の境界と言えるような世界を楽しめるはずです。

参考

https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/49/4/49_280/_pdf

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