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解雇要件は緩和すべきだが、話はそう簡単ではない

私の結論から言えば、日本の解雇要件は緩和すべきだと考えています。ただし、アメリカ並みの解雇のしやすさは現実的ではありません。

ABEMAでアメリカのテック企業の大量解雇・レイオフについて取り上げられていました。You Tubeのみで全編見ていないので、異なる部分があるかもしれませんが、全体としては「日本も解雇要件を緩和すべき」という論調でした。

アメリカの解雇の仕組みは日本には合わない

たしかに専門家が語るように、日本の解雇要件は昭和の高度経済成長期につくられた法律です。失われた30年の低成長の日本に合っているのかは疑問とすべきところ。

しかし、アメリカが大量解雇できるのは、資本主義の考え方が浸透しており、かつ移民によって新たな人材が流入しているからです。企業を成長させるために人材を集め、不要になったら解雇するという文化があり、優秀な人材が集まり続けるから、高い給与で彼らを雇え、さらに成長できるというサイクルが生まれています。

さらにABEMAが語っているのはシリコンバレーというアメリカでもハイクラスの世界です。これが製造業のライン工などになると話は変わります。日本のように労働組合が結成され、雇用を守れという運動をしています。

そこに乗っかったのが、前アメリカ大統領のトランプ氏です。(製造業が主力だった頃の)偉大なアメリカを取り戻せというスローガンで当選しました。それだけ解雇されても次に行けない労働者が多いのです。

ABEMAではないですが、日本の解雇要件を撤廃すれば日本の雇用の流動化が生まれ、新しい産業に人材が流入し、日本の経済は復活するという人もいます。新しい産業は高度化されている中で、単純に労働力を移動させれば経済が回復するというのは極論です。

ヨーロッパも労働に対する考えが違う

アメリカと日本の中間と紹介されたヨーロッパは、徹底したジョブ型雇用です(特にドイツやフランスなどの西ヨーロッパ)。横スライドで転職するので、枠があればスキルで転職できます。そのため、それまでのつなぎとしての高い退職金で問題ありません。

しかしながら、それゆえにスキル・経験の乏しい若者の参入が厳しく(日本のような新卒一斉採用がない)、若者の失業率が問題になっています。

日本の雇用は「家族」

日本の雇用は「メンバーシップ型」と「終身雇用」「年功序列」がセットとして運用されてきました。メンバーシップ型とは一言で言えば「社員は家族」「一丸になって頑張ろう」という働き方です。そのため、ゼネラストとして、さまざまな仕事が割り当てられます。

家族なので、お前の人生は守ってやる=終身雇用になりますし、参加年数が長い社員の方が偉い=年功序列になります。まさにアットホームな環境で心理的安全性も高いですが、短期間での評価は反映されません。

一方、アメリカやヨーロッパで用いられているジョブ型はプロスポーツチームです。必要なスキル・経験を持つメンバーを高い給与で採用し、高いパフォーマンスを発揮しなければ解雇する。成果と給与が結びつくので、労働者にとって評価を実感しやすいですが、個人やチーム、組織の成果が出なければ解雇される厳しい制度でもあります。

一長一短はあるが、日本の雇用制度は限界

どちらの制度も一長一短があり、一概にどちらが優れているとはいえません。ただ、現状の日本のメンバーシップ型は多くの企業で限界に達しています。メンバーシップ型の企業もあれば、ジョブ型の企業もあるような多様性のある経済が必要だと考えています。

もはや同じやり方(組織の形)で多くの日本企業が成長するのは無理だからです。自分たちの有りたい組織の姿やフェーズによってメンバーシップ型かジョブ型かを選択できるほうが、日本の経済は良くなるのではないでしょうか。

日本の解雇要件は緩和すべきだが…

ですが、現状の解雇要件は厳しすぎ、ジョブ型が適切に運用できません。そのため、私は解雇要件の緩和を主張しています。

ただ、現状で解雇要件を緩和しても恩恵を受けるのは採用強者だけです。企業から引く手あまたの人材だけが好条件で採用され、市場で求められるスキルや経験を持たない採用弱者は転職できない、あるいは条件が変わらない可能性が高いわけです。

雇用の流動性は斜陽企業・産業から成長企業・産業に、労働力を移動させるために必要です。しかし、移動したからといって、すぐに活躍できるわけではありません。移動先で必要なスキルをどう養うのか。まさに今、話題になっているリスキリングです。

問題はリスキリングのやり方で、現状のような職業訓練でやるのか、新産業に資金を与えてOJTでやるのか。これまた一長一短があり、明確な解決策がありません。

しかし、「雇用は聖域。絶対、死守すべき」という価値観は現状に合わず、新しい形を模索すべきです。そのためにオープンな議論が必要です。

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