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グリーンブック

「グリーンブック」って、黒人が泊まることの出来るホテルやモーテルを記した小冊子のことで、そういうものが存在するってこと自体がショックだったんですけど、確かにこれがないと黒人たちはアメリカ(でも保守的で差別の激しい)南部なんかへは行けないだろうし、ということは、これはある意味優しさから出来ている物なんだなと思うと複雑な気持ちになりますが、いやいや、そもそもこういうものが存在していること自体がやっぱりどう考えてもおかしいだろうということで、(この映画自体がそういうアンビバレントを抱えてるというのもありつつ)うーむ、確かにタイトルひとつとってもとても気が利いている。黒人の天才ピアニストドン・シャーリーの南部への演奏旅行にイタリア系白人のトニーが運転手として付いて行くロード・ムービー「グリーンブック」の感想です。

はい、今年度アカデミー作品賞を受賞した「グリーンブック」ですが、前回ここで感想を書いたスパイク・リー監督の「ブラック・クランズマン」(感想はひとつ前にあります。)。その中でも書いてる様に正に対になる様な2作品で。しかも、同時期に公開されて両方ともアカデミー賞にノミネート。かたや脚本賞、かたや作品賞受賞ということになると、全く比較せずに書けと言われてもそれはもう無理なわけです。(ましてや、僕なんか「ブラック・クランズマン」→「グリーンブック」と続けて観てしまってるわけで。)で、必然的にしようと思わなくても比較した文章になってしまうのであればそれはもう比較しましょうと(だし、両方観たうえで分かって来ることがとても多いんですよね。やっぱり。)。だったら、事前にどういう状況で観たのか書いといた方がいいだろってことで。影響が出そうなところを書いておくことにします。えー、まず、先に「ブラック・クランズマン」を観てしまっているというのはかなり大きいと思うんですね。で、その上で映画の作りというかメッセージ性に結構共感してしまっているわけです。(し、はっきり言ってしまえば、「ブラック・クランズマン」のラストのシーケンスで、既にある圧倒的な答えが出てしまっているというか。いや、とは言え、それを踏まえてのアカデミー作品賞なんでしょうけどね。)。そして、「ブラック・クランズマン」を評価していて「グリーンブック」に対して批判的な感想をあげる人が多いというのも知ってますし、あと、「ブラック・クランズマン」は(いわゆる差別される側の)黒人のスパイク・リーが監督していて、「グリーンブック」のピーター・ファレリー監督も脚本家のニック・ヴァレロンガもブライアン・カーリーも(両方の映画において差別する側である)白人というのも、まぁ、情報として知っております。で、それはどっちの視点で描いているかというのと、それによってどういう答えを導いているのかっていうことにやはり少なからず影響してると思うし、同じ内容のことを言っていても全く逆の表現になったりもしてるわけなんです。あと、まぁ、僕の映画の好みが割と人間の暗部を描いたものの方が好きというのもありますね(えー、ただ、この辺はもうそこそこいい年なので、若い時に比べたら愛情とか友情とかそういう話で全然感動したりもする様になりました。)。で、両方を観た結果、基本的にはお互いの映画が語ってることはほぼ同じだなと思いました。こういう状況や条件の中で、「グリーンブック」をどう観たのかというところを書いていこうと思います。

あの、観てて思い出した映画があるんですね。すごく好きな映画で。今だに思い出すとジワジワと泣けてくるんですが、'95年公開のアメリカ映画で、ポール・オースター原作でウェイン・ワン監督の「スモーク」って映画です。白人の小説家と黒人の少年、白人のタバコ屋と黒人のおばあさん、そのそれぞれの出会いを描くって映画なんですけど、なんて言うか、特に何が起こるってわけでもなくて。孤独な人同士が交わることで自分は孤独だったんだなというのを噛みしめると言うか、人生の中で一瞬交錯する出会いと別れを後から思い出してる様な映画なんですけど、主人公のタバコ屋のオヤジをハーヴェイ・カイテルが演じてて、(他人と相入れなさそうでしょ。)このオヤジが、自分を孫だと勘違いした盲目の黒人のお婆さんと心を通わせて行くって話があるんですけどいいんですよねぇ。なんか憐れみじゃなくて。お婆さんと接することで自分の孤独を癒して行ってる様な感じがして対等で凄くいいんです。で、この映画は別に人種差別のことを描いてる映画ではないんですけど、なんて言うか、人物同士の距離感が「グリーンブック」と似てるなって思ったんです。たぶん、こういうハートウォーミングな話で白人と黒人ていう組み合わせが珍しかったんじゃないかと思うんです。当時。なんですけど、そこにリアリティも感じていたというか。今('95年)のニューヨークのリアルな暮らしではこうなんだって感じたと言いますか。それで、「スモーク」以来にこの距離感を感じたのが「グリーンブック」だったってことだと思うんです。

でですね、(ハーヴェイ・カイテルの役のオーギーと、今回、ヴィゴ・モーテンセンが演じてるトニーがなんか見た目とかガサツな感じとか空気感が近いというのもあるんですが、それよりも、)「スモーク」に出て来るもうひとつの方の話、白人小説家と黒人少年のお話のふたりの関係性が、「グリーンブック」におけるイタリア系白人のトニーと天才ピアニストの黒人シャーリーの関係性に近いと思ったんです。えーと、近いというか、ちょうど逆になってるなと。「スモーク」の白人小説家のポールはある事件で奥さんと産まれてくる筈だった赤ん坊を亡くしているんですね。で、そのポールが心ここにあらずで道を歩いていて車に轢かれそうになるんですけど、それを助けるのが黒人少年のラシードなんです。ラシード(は偽名でほんとはトーマスと言うんですが。)は自分を捨てた父親を探してニューヨークに来ていて、更に不良仲間が強盗したお金を持って逃げてもいるんです。で、ポールはそんなラシード(トーマス)を家に泊めてあげたりバイト先(オーギーのタバコ店)を世話したり、父親を探すのを手伝ったりするんですけど。これ、黒人と白人の話ではありますけど、その前にインテリ小説家と不良少年の話なんですよね。(「スモーク」では人種間の問題は特に言及されないんですけど、確かに観ている時に人種の違いによる立場の違いというのを自然と受け入れていたかもしれません。)で、これが「グリーンブック」では、黒人のシャーリーの方がインテリで白人のトニーの方が不良オヤジって逆の関係性になっているんですよね。

「グリーンブック」でも「スモーク」でも僕が面白いと感じたのはじつはこの関係性の部分なんですね。要するに全く交わる筈のないふたりがひょんなことから一緒に旅をしなきゃいけなくなるという。で、これはバディ物とかロード・ムービーなんかではほんとに良くあるシチュエーションなんですけど、「グリーンブック」はここ(関係性)の描き方がむちゃくちゃ繊細で緻密で(これはトニーとシャーリーだけじゃなくて、バンドメンバーとか、トニーの奥さんとの関係とかもですね。)、実話ではあるんですけど、ドラマとしての構成がきっちりハマって観ていてむちゃくちゃ心地良いんです(例えば、ドクター・シャーリーが自分の出自を受け入れて行くのと、差別に対して自覚的になって行くのがちょうどクロスフェードする様に描かれて行くんですけど、こういうのほんと上手いなと思いました。描き方が。あとラストがちょうどクリスマスなのとかね。)。だから、「スモーク」とか、あと例えば、ベトナム戦争の戦場での白人記者とベトナム人通訳との友情を描いた「キリング・フィールド」みたいな、関係性萌え映画としてめちゃくちゃ良く出来てるんですよ。

つまり、そういう異業種友情物語として見れば、笑って泣けて(正直、シャーリーが「今日のことは知られたくなかった。」って言うところと、黒人だらけのバーのセッションで楽しそうにピアノ弾いてるところは泣きましたよ。泣きますよ。そりゃ。)、ラストの展開なんか、「トニー、もちろんここで誘うよな。」って思ったらそうなって、でも、「シャーリーは断るよな。」って思ったらそうなって、そうなることによって気持ちが高まって、最後、最高に爽やかな気持ちで席を立てるわけなんで、もう間違いないんですけど。ただですね、なんか、ちょっとした違和感が、あるんですよねぇ。うーんと、要するに、それはこれが差別をテーマに掲げてる映画だからなんだと思うんですけど(で、更に「ブラック・クランズマン」を先に享受してしまってるというのが大きいんですけど。)、本来は人間ていうものの在り方に違和感を感じるって話なわけじゃないですか。差別なんていうものは。それをですね、何の違和感も引っ掛かりもなく爽快な気分で劇場を後にしていいのか?っていうね。違和感なんですよね。で、「ブラック・クランズマン」もドラマ部分は「グリーンブック」とほぼ同じことを言ってると思うんですよ。差別されてる黒人の方にも無意識の差別意識はあるってこととか(これに関しては「グリーンブック」の方が顕著だったかもしれません。)、ひとりひとりになれば分かり合えるのにそれが組織とかしきたりとか大きな括りになると途端におかしなことになるとか。ただですね、「ブラック・クランズマン」は最後にそれはやっぱり違うだろ?って。だって、現実に全く話の通じないヤツらがいるからこういうことになってるんじゃん。というのをきっちり見せてくれるんですね。

だから、「ブラック・クランズマン」に比べて「グリーンブック」はめちゃくちゃ良く出来ていて、全編通していちいち気が利いてるというか。その気が利いてて全く違和感のないところに違和感を感じたって話なんですよね。

主演のふたり、ヴィゴ・モーテンセンもマハーシャラ・アリもほんとにめちゃくちゃ良かったですね(あとトニーの奥さん役のリンダ・カーデリーニもちゃんとしててほんと良かったです。)。ただ、アカデミー作品賞かと言われたら、完全に個人的な好みってことで「ブラック・クランズマン」かなと。更に言えば「ROMA / ローマ」なんですけどね。個人的には。(「ROMA / ローマ」の感想は次で書きます。)

https://gaga.ne.jp/greenbook/

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