見出し画像

【映画感想文】Winny

2002 年に起きた画期的なファイル共有ソフト"Winny"を使った違法アップロード。それによって開発者の金子勇さんが逮捕されるという実話を元にした映画『Winny』の感想です。

個人的にはこの事件ほとんど知らなかったんです(違法アップロードをした人が捕まったということがニュースになっていたのをかろうじて知っていたくらいで、その後、その開発者まで逮捕されていたとは知りませんでした。)。予告などで観て、日本で実際に起こったネット関連の事件ということで、そういう新しい価値観を持ったものがどう犯罪と絡んでどう裁かれるのかということに興味があり観に行ったんですが、その辺はかなりちゃんと取材しているのかもの凄く丁寧に描かれていて、見たかった技術開発(ここは芸術と言い換えてもいいかもです。)と社会性という難しいところをきっちり追ってくれていて(表現者の倫理とそこを突き抜けたところにある可能性などなど)とても良かったんですが、そうすると、映画自体が説明的で淡泊になってしまったりもするんですね。そこのところをこの映画、(邦画では珍しいと思うんですけど)キャラクターの魅力でグイグイ引っ張っていくんですよね。そのノンフィクションであるがゆえのリアリティと映画的なファンタジーのバランスがめちゃくちゃ良かったんです。

で、まぁ、まずは主演の金子勇さんを演じるこのブログでもちょくちょく登場する僕らの東出くんです(やっぱりこの人俳優としては凄いと思うんですよね。人としてはどうか分からないですけど。)。じつは僕、予告で観てる段階では、今回の主人公が東出くんだとは気づいていなくて。本編観始めてしばらく経っても分かってなかったんですよね(役作りで18キロ増量したそうです。)。そのくらい、なんというか、その(これは当時のいわゆるネットギーク的な人の暮らしぶりを緻密に描いた監督の手腕でもあると思うんですけど、)たたずまいだけで、表現者が生まれ持つピュアさと狂気が醸し出されていて、それでいてとてもチャーミングという。なるほど、この人は天才(であり非常識人)なんだなというのを体現しているんです。その金子さんを信じて、彼の弁護士となる壇弁護士を演じた三浦貴大さんも、このところ映画でよく見るんですけど、また、そのどれとも違っていて。恐らくこの映画の中で最も観客である僕らに近い存在の人というか、天才の天才性を見抜きながらもあくまで常識のラインから物を見る人という実存感のある役(だって、この人、両親が三浦友和さんと山口百恵さんというある種めちゃくちゃ特殊な環境で育っていながら、よくこの普通の感覚というのを持ってるなと思うんですよね。これはご両親が普通の感覚というのをちゃんと持つような家庭環境を守っていたんだろうなと映画を観ながら考えてしまいました。)をめちゃくちゃナチュラルに演じているんです。で、このふたりに加えて更に、吹越満さん演じる敏腕弁護士の秋田弁護士という人が出て来るんですが、この人は先に出て来たふたりに比べたら割とデフォルメされてると思うんですけど、このデフォ具合が絶妙なんです。映画終盤で秋田弁護士の警察への尋問シーンがあるんですが、ここで、それまで凄そうだけど…っていう雰囲気だけが醸し出されていた秋田弁護士の実質的な凄さが明らかになるんですね。で、そこが、あの、ちょっとヒーローっぽいといいますか、凄い人出て来た~っていう、待ってました的な感じになるんです。ここの為に渡辺いっけいさん演じる刑事を憎らしく描いて来たんじゃないかって思ってしまうくらい。

まぁ、そうやって出て来る人たちがそれぞれ実存感がありつつキャラが立っていまして。で、そのきっちり描かれたキャラクターたちがリアリティのある法廷劇を演じるんです。なので、実際にあった裁判をリアルに追いつつもちゃんとエンタメとしても楽しいという、かなり絶妙なバランスで成立してると思うんですよね。まぁ、そうやって楽しんだからなんですけど、欲を言えば、警察側の事情をもうちょっと描いて欲しかったかなとも思うんです。もちろん、金子さん側の弁護士である壇弁護士の視点で書かれた原作なのでそちらよりになるのは当然であり、ネット黎明期の混沌とした時期の話なのでどちらが正義かって話でもないんですけど、あの、この映画でもうひとつ、Winny事件とは一見関係ない吉岡秀隆さん演じる警察官の話があるんですね(この話がまたどう絡んでくるのかっていうのがエンタメ的な面白さに繋がってはいるんですが)。その話もあいまっちゃうとですね、警察側がなんで金子さんを逮捕したのかっていう理由が"警察はバカで醜悪だから"っていう風にしか見えないんです(まぁ、もちろん、そこのところは分からない部分なのかもしれないんですが)。これ、警察にもやんごとない事情があってというのが描かれると、より、新しい価値観を提示するということの難しさや大変さ、そして、大切さということが響いたんしゃないかなと思うんです(とはいえ、20年前の日本で実際にこういうことがあったというのは知られるべきことだと思いますし、現在のネットリテラシーであるとか報道の仕方であるとかということにも関係してきますし、表現と社会性という普遍的なことも言っているし、何より映画として面白いので沢山の人が観られるといいなと思います。)。



この記事が参加している募集

映画感想文

サポート頂けますと誰かの為に書いているという意識が芽生えますので、よりおもしろ度が増すかと。