見出し画像

【映画感想】燃ゆる女の肖像

えー、2020年最後の劇場鑑賞となりました。2020年は一年を通してバタバタしっ放しでしたが思ったより観れたかなと思っています。とにかく観た人の評判がとても良いセリーヌ・シアマ監督による画家とモデルのラブ・ストーリー『燃ゆる女の肖像』の感想です。

画面の美しさでいったら2020年No.1じゃないですかね(画面の汚さNo.1の『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』と続けて観てみたいものです。映画表現の極北を観るみたいな感じで。)。で、その美しさの表現がめちゃくちゃ自然というか素朴というか。海とか建物なんかはもちろん人間も含めてミニマムな美しさがあるんです(エロイーズの登場シーン。前を歩くエロイーズの被ってたフードが落ちて、金髪の髪の毛があらわになるところなんてハッとする様な美しさがありました。)。それが映像だけではなくストーリーや演出にも反映されていて(余計なことしてないと言いますかね。)。登場人物もほぼ女の人しか出て来ないので、常に自然体の女の人が画面に映されるんですけど、観終わったあとの一番率直な感想は「いや〜、女の人見たな~」だったんです。アホみたいな感想ですけどそういう映画なんです(映画に出て来るキャラクターとして誇張されてないというか。)。その中で、女の人のこういうところは今まで描かれてなかったなというのがポロポロ出て来て、自然でありながら時々「おっ」とびっくりする様な。ドゥニ・ビルヌーブ監督のSF映画を観てる時みたいな、知ってるけど知らない世界を見せられてる様な気分になるんです。

舞台が18世紀のヨーロッパなので、『アマデウス』とか『バリー・リンドン』なんかと同じ世界を描いてるんですけど、更に上流階級の人を描いているので、そのしきたりとか。例えば、政略結婚的に相手が決められて女の人はそれに従うだけみたいな、そういう女の人の立場みたいなのは同じ様に描かれるんですけど、女の人そのものの描かれ方が違うと言いますか。ソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』の様な特別で奔放な立場の女の人とも違っていて。もっと個というか。社会のしきたりに対して個人個人がどう考えていたのかっていうのが描かれるんです(なんですけど、それも強く印象付けられるわけじゃないのでそこはかとないんですけどね。そういうところもミニマムなんですよ。)。状況に対してのマリアンヌの考え、エロイーズの考えというのがあって、その各々の考えに対して社会というのがどう影響してるかみたいなバランスになっていて、そこにこれまでの18世紀を描いたドラマよりも自由を感じるんです。ただ、一方でこういう閉塞的な空間でしかそれを表現出来ないという不自由さも感じて。そういう常に画面に映っているものと逆の感情を抱かされる様な映画なんですよね(個人にめちゃくちゃ寄り添うことでそこから世界が見えて来るという意味では、14歳の少女の心の中を描きながらそれが社会とリンクしていく状況を描いた韓国映画の『はちどり』にも似てるかもしれません。)。マリアンヌはエロイーズの肖像画を描きに来る画家なんですけど(で、その肖像画というのはエロイーズのお見合い写真として使われるものなんですが。)、そういう、映画を構築する為の関係性みたいなものも途中からどんどんどうでも良くなっていくというか、下女のソフィを交えた気の合う女性3人の青春物語みたいになって行くんですが、それが性別ではなくマリアンヌとエロイーズとソフィっていうそれぞれの個の話になっていくんです。その描き方がとても新鮮で刺激的だったんですよね。社会の中に個がいるのではなくて、ひとりひとりそれぞれが存在する世界が社会なんだみたいな。そういうアナーキーな視点を感じるんです。

そういう社会とあまりコミットしないモラトリアムな(閉塞的な)時間みたいなのがずっと描かれるんですが、さっきも書いた様に、この映画常に画面に映っているものと逆の存在を感じさせるので、映画を支配する空気がずっと不穏なんですよ。で、それが時々噴出するんです。例えば、堕胎手術してる同じベッドに赤ん坊がいるとか(殺される命と生かされた命ってことでしょうかね。そもそも画家とモデルというモチーフ自体が対になってますしね。その対になる関係性が流動的に入れ替わるのがスリリングでもありますね。)。ストーリー上で当然の流れで描かれることの対にあるものが特に説明もなくふいに画面上に現れるのが彼女たちが自覚してない不安とか思いみたいなものを見せられてる様でハッとするんですが、その不安定さも美しさに昇華されていくというか、画面上はあくまで美しくあり続けるんです。で、ああ、このまま登場人物たちに寄り添ってひと夏の経験的な世界のまま(現実を匂わせて)終わって行くのかなと思っていたら、ラスト・シーケンスで急にカメラが引いて、世界を俯瞰で見せる様な撮り方に変わって(なんというか、今まで繊細に説明を省いて来た世界を一言で説明する様な、ある意味乱暴なラストなんですけど、その燃えカスの中にも美しさがあるという様な強さがあって。)。いやー、お見事となりました。

【お知らせ】

『映画雑談』が配信トークイベントになります!

2021.1.7(木)
『映画雑談』の会 ~音楽のある風景編~
渋谷LOFT HEAVENからライブ配信
【出演】カシマエスヒロ・ハリエコウジ
【ゲスト】タカハシヒョウリ(オワリカラ)・鳥居真道(トリプルファイヤー)
《配信チケット》¥1,500
《配信時間》20:00~(予定)

カルチャー全般にも詳しいバンドマンのおふたりをゲストに迎えて、2020年の総括的な話から映画と音楽についてまで他では聞けない話満載(もちろんネタバレ全開)でお送りします!!!!!

視聴チケットなど詳細はこちらまで↓

#映画 #映画感想 #映画評 #映画レビュー #note映画部 #燃ゆる女の肖像 #セリーヌシアマ #アデルエネル #ノエミメルラン #フランス映画 #ラブストーリー

サポート頂けますと誰かの為に書いているという意識が芽生えますので、よりおもしろ度が増すかと。