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【映画感想】クローブヒッチ・キラー

「もしも、自分の父親が世間を騒がすシリアル・キラーだったら」という恐怖を思春期の少年の妄想として、果たして、それが真実なのかというサスペンスとして描いた『クローブヒッチ・キラー』の感想です。

『コップ・カー』や『スパイダーマン ホームカミング』などジョン・ワッツ監督の作品に関わってきたクリストファー・フォードさんの脚本ということで、そう言われると、あ、なるほどと思いますね。『コップ・カー』も『ホームカミング』も思春期の少年の妄想や残酷性が軸になってる物語で、それを青春モノではなくスリラーやヒーローモノにしてるのが面白かったんですが、この『クローブヒッチ・キラー』は、そのバランスを逆転してるというか、アメリカの閉鎖的な田舎街で10年前に起こったクローブヒッチ・キラー("クローブヒッチ"は巻き結びという意味で、死体に巻きついてるロープが巻き結びになっているところからそう呼ばれてるということらしいです。)という殺人鬼による連続殺人事件を中心にしながら、その事件の犯人が自分の父親なんじゃないかと思い悩む少年の思春期特有の妄想と、そのくらいの年代の子が持つ潔癖さですかね。というフィルターを通してストーリーが進んで行くんですね。つまり、この映画の中には、そういう思春期の少年が持つ"不確かさ"しかないんです。父親がシリアル・キラーかもしれないという証拠が出て来ても、それは少年の思い込みである可能性というのが常にあって。要するに猟奇殺人事件の謎解きストーリーを青春映画の方法論で構築した様な映画なんですよね。

例えば、クローブヒッチ・キラーかもしれないと息子に思われてる父親は、表向きは信仰心が強く、普段はボーイスカウトのコーチをやってる様ないわゆる子供たちの手本になるべく存在している大人で、家族仲も良く、息子のタイラーくんもある意味尊敬する父親であったわけなんですが、その父親をタイラーくんが疑い始めるキッカケというのが、タイラーくんが彼女と会う為に内緒で乗って来た父親の車の中に、ボンデージ写真の雑誌の切り抜きがあったってことで。これ、大人の視点で見たら、たとえ聖人君主の様に見える人間だとして、その人に趣味としてのSM傾向があったって別におかしくはないわけですよね。それをこの映画では思春期の少年から見た視点で描くわけです(というか、サスペンスの謎解きの部分をこの視点でやるんですね。しかも、それの反対側に置かれるのは理解不能なシリアル・キラーの思考回路ですから。思春期の妄想 vs 精神異常者の思考回路っていう凄まじい構図になるわけなんです。)。そうすることで"何を信じて良いのか分からない"という不安定さが常に映画に漂っているんですけど、映画が青春ストーリーの体を成しているので、タイラーくんが世界を知って大人へと成長することが事件の真相に迫ることとリンクしていくんです。ここら辺の描き方面白いんですよね。

つまり、自分が何の疑いもなく信用していた父親という存在とは実際どういうものだったのか(父親とクローブヒッチ・キラーとの関係とは)、その父親を中心とする家族とは、敬虔なクリスチャンということで強い繋がりのある(自分が住む)街とは、そして、それらを内包する世界とは、ということとタイラーくんが直面する度に10年前の連続殺人事件の真相が明らかになって行くんです。ただ、まぁ、その真相というのがちょっとサイコに振り切り過ぎじゃないのかというのはあるんですけどね。普通そんなエグイ通過儀礼ないからっていう。いや、僕は好きなんですけどね。このくらいサイコな方が(ここ何年かの間に観たサイコ・キャラの中でも気持ち悪さでは群を抜いていましたね。逆に説教するとことか最高でした。)。で、その真相究明をするのにキーになってくるのがカッシという少女なんですけど、この少女と一緒に謎解きをするということでボーイ・ミーツ・ガールものでもあるわけなんですよね。少年が少女と出会うことで世界を知って成長するんです。ただ、何度も言いますが、その成長の仕方がエグいんですけどね。

ということで、敬虔なクリスチャンの住む田舎街の不穏さとか、人間の心理の気持ち悪さとか、思春期の少年のザワザワする感じとか、とても好きな要素の多い映画なんですが、ただですね、同じ様な思春期の少年たちの物語をスラッシャー・ホラーにした『サマー・オブ・84』って映画があって、それもそうなんですけど、ラストがですね、スッキリしないんですよ。何ていうか、何も解決してないというか。10代の少年少女の成長物語としては、ここで経験したことがちゃんとこの子たちの今後の人生の糧となってもらいたいと思うんですが、これじゃトラウマにしかならないでしょ?っていう。この子たちの今後が心配っていう。ざわついたまま放り出されるんですよね。ラストで(まぁ、ただ、また観ますよ。僕は。観て「ああ…」ってなるのを繰り返すんですよ。そういう余韻のあるサイコ・サスペンスです。)。

※ちなみに、この映画の殺人鬼は、1974年から1991年までの約30年間、10人を殺害しながら逮捕されなかった"BTK絞殺魔"ことデニス・レイダーをモデルにしてるらしいです。

https://clovehitch-killer.net-broadway.com/

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