午後9時_渋谷にて_

午後9時、渋谷にて。

雑踏は思考を、感情を惑わせる。

笑い声。怒鳴り声。かしましい話し声。赤ん坊の泣き声。

どれもその人達が生きている時間の中だけのものであって、

私には何も関係はない。

それでも、音は容赦なく耳から脳へと突き進み、

私の胸の奥にざわめくような波を立たせる。

道行く人々がそれぞれの時間を生きているように、

私は私の時間を生きている。

だから、そっとしておいてくれ。

うるさいのは苦手なんだ。

そして、音を遮るために私は耳をイヤホンで塞ぐ。

だけど、音は消えても、伝わってくる。

人々の表情が。地面の汚れが。肩にぶつかる他人の重みが。

決して関わりたくないわけじゃない。

だけど、今は一人にしてくれないか。

私を一人にしてくれないか。

そんなことを思ったって、駅前の交差点は容赦ない。