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無花果


無花果がひとつ掌の中にあって
右手に委ねられたナイフ
仄暗い人生における生存のために量産された
ペルソナをー1枚ずつ剥がしていくかのように無花果の皮を削いでいく
乳白色の果肉が顕わになったら
するりと縦線を刻む
果実のように
ぐじゅぐじゅと熟れた内面が露わになる
その様は在るが儘の私の人格のようで
理性のようで
憎いほど
愛おしく
しかし
果肉の甘さに絆されてゆけば何もかもすべて紫煙と似た何かに包まれていく
揺りかご
胎盤
帰る場所を想起させる
 
思案をめぐらせてナイフを無言で動かす
深夜の台所
思案

白昼夢の中では
ぐらぐら煮え立つアスファルトに果肉の雨が降り注いでいるだろうか

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