百城みこ

詩を書いています X@muimik0

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最近の記事

【詩】『無題』

十センチメートルしか開かないガラス戸を開ける 隙間からは深夜一時の凍てつく息吹 どこにいても孤独な私の隣  風が腰掛けた 冷たさと抱擁を交わす それは私の存在への受容 しかし何も言えないままで 冷たい故に与えられた痛みはしずかな裂傷になる 睡魔とともに肉体はリネンに沈む どこまでも  これでいい このまま痛みとひとつになって

    • 【詩】『催花雨、青い窓辺』

      催花雨はまたやって来た 湿り気を帯びた青い窓辺 憂鬱な肉体が沈む浅葱色の水槽 沈む私のしずかな肖像 羽だけは濡らさぬように 羽ばたけなくなるだろうから 謝りたかった そんな言葉たちが乾いた地面に残されて 浅くなった意識の底では また夢を反芻するミニシアター 謝ってもきっとまだ足りない 催花雨が去っていった うるわしの午後 光舞う庭に白色エンゼルの吐息 憂鬱そうな浅葱色の水を孕んだ浴槽さようなら 僕はそこからまたはばたいていく 許しの時はこ

      • 【詩】刃先

        みだれてゆがむ呼吸の所在を必死で探している ぼくの周辺は生きづらさの灰で埋もれた死の街並み 乾ききった理性と湿っぽい本能は 拮抗する呪縛となって ハサミの刃を鳴らして断ち切った原始的な欲求 肉体に染みついた過去をもぎ取っても 現在は痣になって残り続ける 真実と悟りは痛みのなかにある と説かれ またハサミの刃を鳴らす そして 痣は腐敗が進行する 咲くはずのカルミアはすべて枯らした 罪を裁いて そのハサミで髪を切り落として 断頭台にふさわしくあるように

        • 【詩】虚ろ

          貴方への純情は何処までも空っぽの代物だったのだ 去っていく背中を見た瞬間から全ては虚ろに回転しはじめる なんて素敵な、 節操もなく繰り返された相槌を思い返すのは感傷だろうか それは鉛色した虚像でしかないと耳元で囁く 踊り続ける私の肖像 しかし音楽は止む 踊ることをやめる/音が褪せていく/泡が水に掻き潰されるように/私の肖像も煙のように消えた 貴方はとっくにそこには居ない また虚ろに戻る 繰り返す、

        【詩】『無題』

          しずかな痛み

          午前2時。 真冬の風がその冷たさで頬に見えない裂傷を与えていくようだ。 寒さは寡黙で、静かな痛みだ。 精神科の窓は相変わらず10センチメートルしか開かないが、その僅かな窓の隙間から痛みはやってくる。 心地良い。 そうして徐々に私という存在の輪郭は明確になっていく。 つまり、私は私であることを実感するに至るのだ。 冷たさというのはじつに不思議な効力をもっているといえるのではないか。 そしてこれもある種の自傷行為的なエッセンスを持ち合わせているとも考えてもいい。

          しずかな痛み

          今年こそは詩人を名乗れるようになりたい

          2024年が始まりを迎えたが、 私はいま病室にいる。 約1年振りに任意入院という形をとって昨年末から精神科病棟(開放病棟に)入院したのだ。 しかし決して寂しさを感じていない。 私は病棟を病室を愛しているからだ。 そのような私にとって大切な場所で安心につつまれながら新年を迎えれたことは幸運かもしれない。周囲の人々への感謝の念を抱かざるをえない。 と、私の現状はさておいて。 今年こそは昨年よりもっと詩を発表し、 文学フリマで合同誌を出版したい。 そして、様々な現代詩が

          今年こそは詩人を名乗れるようになりたい

          【詩】病室

          寂しさに泣くような雨音 やはり窓の外側を夢想する 窓の外には空白の獣(けだもの)が満ちている 気づけば目を伏せていた 憂鬱の蔓延る病床は白くどこまでも終わりなく透き通っている それは遠く続く歴史の一部に紡ぎ合わされ… 私の内部で記憶の形を成す カーテンの内側で咳をする実存 反芻されるは祈りの声 どうか、 お大事に どこまでも透明な声で反響する 窓の外側には何も存在しないかのように 解けていく憂鬱のように 私の影も形を纏う輪郭も曖昧になる そして

          【詩】病室

          はく

          倍速のように動く人々を見下ろしている その意味を問わなくても現実は無情だ がらくたを産むくらいならリネンの上で灰色の亡骸になるよ 隔絶するためだけに存在する窓枠からは嘲笑が漏れ出す コールタールのような黒 雨の中傘を捨てるような日々 笑ってもいいよ もう生きていたくないもんね? 端正な横顔の文字列を追っていたら一日はすぐ昏れる これは驕りかな でも貴方の歌詞よりはずっとマシかもね? 夢の中で君の甲高い声が聞こえた 最悪の目覚めと驕りたかぶった罰をどうも やっぱり

          【詩】『廃墟にて』

          廃屋へ巡礼 思い出のなかに沈殿する私の青白い肉体 思案 巡らせる 傷に触れる行為だ 傷を抉る悪意だ やめてしまいたい シナプスの歯車はうたっている 無名の詩(うた?) 無名の詩(うた?) 無名の詩(うた、?) 無為は積み重なる 廃屋にて眠る 口ずさまれゆく黒の文字列 総ては葬列になっていく 魂はあの腐り落ちた窓辺から逃げるの? 問に解はない 廃屋の中で歌う 胸が痛む理由を知りたい 退屈の寝返り 古傷を寄せ集めたような 遠い街の呼吸がき

          【詩】『廃墟にて』

          【詩】『福音』

          雪を侵す透過の涙に想いだけ はせる のせる 刹那 一握りの時間 私は息を吹き返していた 心 そして 感性の螺子巻はまた動き出す 拍動 拍動 瞼の重量はもう感じられない 歩み 既に止められず 空っぽだけが広がっていた ただ文字が列をなすだけの白さ 詩の肖像が築かれゆくための空白 これこそが私への福音

          【詩】『福音』

          【詩】星

          無為の果実を手にとって 冷たい孤独の床に臥せる黒髪 傷創を撫でる指先は夢うつつ 爪先で映し出す白昼夢は 遥か一億光年先にある君が住む遊星 どうか連れ出して ここは退屈で仕方のない 孤独の小惑星 じわり、 融けていくだけの時間を 硝子瓶に詰めて 無重力の空白へ放とう そして 無垢なる星の在処をたずねよう 歩みは跳ねる まるで月の兎のように ステップを踏んで、 手をとって、 ふたり。 わたしたち 重なるふたつの星 呼吸で瞬くふたつの星

          【詩】海辺の墓地

          噎せ返るような熱を撹拌しつづけて夏 やはり甘いアイスクリームを口に運び スコールがまた気まぐれに降り注いでいく アスファルトの白線が墓標のように連なり 立ち昇る陽炎は還ってきた魂たちだろうか 海辺の墓地には白ユリのざわめき 本能とともにはいきられなかったよと 最後に残していった人々が眠る そこには 制約も 苦楽すら存在しない 墓石の前で足を止める 左手に握らせた白ユリを手向ける 独りで泣くような風が 鳴りやまないでいる 鳴りやまないでいる ひん

          【詩】海辺の墓地

          【詩】宵のゆりかご

          ゆりかごのなかで眠れる静謐 あなたは 永遠とも呼べる宵と寄り添って 微笑みをそっと投げかけていた ずっと幼子でいたいだろう 今や 恐るべき大人たちの影に埋没し 夢魔の差し出した無花果によって 楽園を追われてた群衆のなかで あなたはまだゆりかごを出ずにいる 無機質たる孤独の輪郭に指先はあてがわれ 無言の赴く儘に甘やかな呼吸を繰り返す 繰り返す 夜が底をつくまで眠る やわらかく被さるパイル地のうえに 星座を描く 星々になっていく 星々になっていく やがてそれは灯火になる モラトリ

          【詩】宵のゆりかご

          【詩】灰の降る夜に

          くちのない物質に口付けをする日々には憂いが後光のように刺す 煙草の遺灰が鈍色の塔を築いていく 澱みの中で揺らいでいく脆い自意識が あ、 すべて まっさらにして 終わりたい と 唇から漏れた独白が粉々の硝子のような灰になって降り注ぐ私たちの住む墓地のような街に 傘など無い 歩く サラリーマンたちは傘を差す が 私には無い ああ と漏れたため息は雑踏にざりざりと掻き消され潰れて色を失う 喪に服そう 喪に服そう 喪に服そう この街でまた

          【詩】灰の降る夜に

          無花果

          無花果がひとつ掌の中にあって 右手に委ねられたナイフ 仄暗い人生における生存のために量産された ペルソナをー1枚ずつ剥がしていくかのように無花果の皮を削いでいく 乳白色の果肉が顕わになったら するりと縦線を刻む 果実のように ぐじゅぐじゅと熟れた内面が露わになる その様は在るが儘の私の人格のようで 理性のようで 憎いほど 愛おしく しかし 果肉の甘さに絆されてゆけば何もかもすべて紫煙と似た何かに包まれていく 揺りかご 胎盤 帰る場所を想起させる 思案をめぐらせてナイフ

          【詩】立方体との邂逅

          鮮やかに染まることを待っているような白いプラスチック製の立方体 棒で突けば崩落しそうな平屋の内部にて 浮:遊 している 展開される物体 内部には僕の肉体 君が?僕で 僕が?君だ 深夜の廊下 軋ませていく僕の足音 二足歩行で歩み寄るドッペルゲンガー こちらには来ないでと願う本能の真向かいには知りたいと欲する理性が腕(かいな)を伸ばしていて葛藤を無機質を孕む目で生産しているこのような出会いが在っても在っても良いのか良いのか逡巡はビデオテープのよう

          【詩】立方体との邂逅