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強面な甘さ

あいいろのうさぎ

「もういい加減諦めたら?」

「お前に慈悲はないのか」

「ないね」

 そうハッキリ言われると何も返せなくなる。

 学生時代から使っている喫茶店で喜美子に相談を持ち掛けたらこれだ。

「あんたが強面で近寄りがたいのなんて今に始まったことじゃないでしょ?」

「だから困ってるんだろ、ずっとこの顔なんだぞ」

「整形でもしたら?」

「そうじゃない……」

 喜美子に相談した自分が間違ってたんじゃないかというほどバッサリ切り捨てられる。

「もっとこう……あるだろ、親しみを持ってもらうために気を付けることとか」

「そうねえ……人見知りをやめるとか」

「それはできない相談だ」

「諦めなさい」

 そうは言われても人見知りはするものではなく備わっているものなので捨てろと言われても難しい。

「そもそもあんたが変わる必要あるわけ?」

 ポカンと口を開けていると喜美子が続ける。

「別にあんたは悪い人間じゃないんだからさ。仲間のことも大事にしてるじゃない。怖がられてるのも最初だけでしょ? 気にしない、気にしない」

 メロンソーダを一口飲んでから「それに」と言って、

「私はあんたの優しさが伝わりづらい方が、あんたの愛を独り占め出来てる気がして良いんだけど?」

 こちらを試すような意地悪な笑顔で投げかける。

 もう何年も付き合っているが、喜美子はこういうことをさらっと突然言ってくる。慣れるまでには随分時間がかかったし、未だに言葉を返すのは恥ずかしい。

「……別に最初からお前以外に分け与えるつもりはねーよ」

「本当に?」

 もう充分俺の顔は赤くなっているだろうに追い打ちをかけてくる喜美子。

「本当に」

「そ、ありがと」

 満足そうにメロンソーダに浮かぶアイスを食べ始める。

 してやられた。

 問題は何も解決していないのにもう何も言えない。顔が熱い。

「そういうところ可愛いよね」

 あぁ、喜美子には敵わない。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 「栗」がお題のこの作品は最初はイガイガとしていた2人の会話が最後にはとびきり甘くなる、という流れで書けたかな、と思います。栗っぽくなったかしら? お楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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