マッチ売りのこじき

坊や「マッチ、マッチはいりませんか?」

坊やのそばを素通りしていく人たち。

坊や「どうしてうれないの……」

今にも泣きそうになる坊や。

中年男性「坊や。どうしたの?」

声をかける中年男性。

坊や「マッチがぜんぜんうれないの」

中年男性「そうか……よし。私が全部買おう。いくらだい?」

坊や「え! ほんとに! やった!」

中年男性「坊や。嬉しいのはわかるから、いくらか教えてくれないか

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羽子板の音

羽子板の音が聞こえます。

障子を開き、窓を開けると冷たい風が頬を撫で、眩しい光が飛び込んできました。目を細め、空を見上げると、太陽に薄い雲が少しかかるところでありました。降らないか、と少しさみしくなり、「寒い、寒い」とつぶやき、窓を閉め障子を閉ざし、布団の中に潜り込みました。

「よう、いつまで寝てるんだよ」

彼は私を布団ごと蹴り、ぶっきらぼうに言いました。

「正月に雪が降ってんだ、

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劉慈欣『三体』刊行記念! 短篇「円」特別公開

7月4日(木)は、2019年最大の話題作、劉慈欣『三体』の刊行日です!(『三体』とは? というかたは、ぜひこちらの記事をご覧ください)そこで、なんと『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』に収録した、『三体』から抜粋した章の改作でもある、劉慈欣の傑作短篇「円」を、ここで全文掲載いたします! いちど読めば、劉慈欣の閃きとスケールの壮大さがすぐにわかるはず!


The Circle
中原尚哉訳

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笠木は雨が降ると思い出す

笠木には雨が降ると思い出す光景がある。もう十年も昔の話だ。
よく晴れた夏の日に、雨が降りはじめた。
見上げると雨が矢のように降っている。
アスファルトの湿ったにおいが立ち上がる。生温かい空気が肌にまとわりつく。

子供の頃はこういう雨がよく降った。山間の小さな街で育った笠木は、晴れた日に降る雨が好きだった。
罪の意識が無いのだ、と笠木は言った。
曇り空の雨はそれはそれでいいものだが、やっぱり重い。

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電話線とミルキーウェイ

真夜中にしんと沈んだ街、街灯はどこへ導いてくれるわけでもなくぼんやり白く光る。

電話ボックスの四隅には、真昼間にも夜が澱んでいるんだよ、とマスターは珈琲豆を挽きながら歌うように言っていた。本当かな。

電話ボックスにはたぷんと夜が溜まっている。
コインを入れて受話器を取れば、私と同じように夜を啜る、誰かも分からない貴方に繋がる電話があれば良い。私は貴方に約束を取り付ける。
星と星を結ぶみたいに線

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数カ月後に発売する予定の短篇集『「人生」のようなもの』を期間限定で約3日間、全ページ無料公開します。

現在、全文の無料公開期間を終了し、冒頭50ページ程をお試し読みとして公開しています。

制作中の『「人生」のようなもの』を全ページ公開します。
(今回も電書バトさんに取次を依頼しました。)

早速マンガを読むぞ、という方はこの冒頭の文章は飛ばしてスクロールしてくださって大丈夫です。

以下に少し、公開した理由を書きます。
(3度目ですので、ほぼコピー&ペーストです。)
ちょっとしたお願い、くらいに

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理容店と羊

理容室をのぞくと中年の男性が二人いた。そろって初老である。うすい水色のユニフォームに身をつつんだ彼らの身なりは折り目正しく清潔だ。わずかに残っている髪の毛は刷毛でひいたようにきれいに撫で付けられている。
彼らには悩みがあった。
客が来ないのだ。つまり暇でしょうがない。
散髪の練習をするにもお互いに髪の毛は薄くなっているから、満足した練習はできない。
そのかわり、というわけではないがひげはよくのびた

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最終電車

午前零時に待ち合わせをする相手を探している。
.
ねえきみ、今晩の予定は?どうせ、家で静かにねむったりはしないんだろう?今日もまた、ベッドの上でしかやさしくなれないような相手とらんぼうなセックスをするんだったら、僕ともっと大切な約束をしようよ。
ねえ、きみはなんにも知らないんだね。
午前零時の多摩川、電車がすーっと滑っていくのを見たことがある?小田急線。流れる水の上に窓から時間をつぶつぶ零しながら

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『白い会社』
とにかく何もかもが白かった。ビルの外装や内装はもちろん制服や備品に至るまで、オフィス内の一切合切が真っ白だった。余りに白すぎて壁と天井の境目や自席の位置すら見失いそうになる。業務は各々真っ白な席に着き、一切何もしないこと。つまり会社の存在意義までが真っ白なのだ。

『時代の中のひと』

時代の中の人を知りたくて
時代の扉をノックしたら
「呼んだ?」と出てきてくれた

(この人が時代の中の人かあ…)

感心してしまって眺めていると
「あなたー? どなたかいらっしゃったの?
もうご飯冷めちゃうから早く食べちゃってよ!」
と奥から声がした

(え!? 時代って家族持ちだったんだ…)

更に驚いて言葉を失っていると
「オギャー…オギャー…!」という赤ちゃんの泣き声が扉の奥から響いてきた

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