見出し画像

【ヴィネットの魔法】浮揚術(3)

浮揚術の実例として、浮かせる技法オンパレードともいえる、ポケモンフィギュアを見ながら解説していきましょう。

僕が手掛けるポケモンは、トミーから『食玩によるゲームの駒』として発売されたものが最初でした。もちろん、ポケモンは当時から山ほどグッズやフィギュアの類が発売されていましたから、それらとは全く違うポーズや能力表現、生き生きした活躍を産み出すのが造形屋としての矜持だと考え、「誰も見たこと無いポケモン立体」であることを心がけてデザインし、造形してきました。

その後も、(株)ポケモンのゲーム駒用に作られたもの、ポケモンカードとのセットとして作られたもの(U.S.A.)、任天堂の本家ポケモンゲームの予約特典用、劇場版ポケモンの来場者特典、セブンイレブンのドリンクの首掛けボトルキャップ・・・など20年ほど(最近も)作り続けているので、触れられた方も多いのでは?

ポケモンはそれぞれが明確な特徴や特殊能力を持っていますから、それを形にするためには、ヴィネット的表現が似合っています。ゲームの駒やボトルキャップのような、狭い土台の上で動きを表現するために、浮揚術が欠かせません。

◆瓦礫浮揚系

前回前々回で解説した、瓦礫の浮揚は、ポケモンでも結構使っています。
特に、超能力系ポケモンは、その力に伴って周りの瓦礫がぶわっと浮き上がる・・・という演出を加えるパターンを多用します。これは90年代のアニメや漫画における、超能力モノ表現の影響かもしれません。
超能力ではありませんが、宮崎アニメでも、驚いたときに女のコの髪の毛が逆立つかのようにぶわっと持ち上がる不思議演出、ありますよね。

(クリックで拡大)[1~3]デオキシス  [4~6]メガミュウツーY  [7]ミュウツー [8]ハガネール  [9]イシツブテ

1.超能力系ということで、何らかの力で、岩がメキメキと地面から浮き上がって、触手の動きに伴って弾のようにはじかれている状態。
このフィギュアの腕(触手)は、前方に向かって太くなるようパースをつけている。散った岩にも方向性をもたせ、前方に向けて飛び散って見えるようにしている。
だが、写真2,3でお判りのように、実は前方への広がりはあまりなく、岩も触手にべったりくっついており、前方から見た時の効果を最優先しているのがお判りだろう。主体にパースをつけた立体を嫌う人もいるが、作品によってはあえてやることもある。効果は絶大だ。特にネームがあって正面がはっきりしているボトルキャップだから、大胆に攻めるのもありと判断した。


4.設定書に似たポーズがある。その周りに、超能力を目に見える形として描いた瓦礫を浮かすことで、主体(メガミュウツーY)も浮かばせ、空中を駆けるポーズを可能にした。
デオキシスとは逆に、どこから見ても、あまり破綻のない構成である。ベストアングルが背後からの視点という珍しさ、しかも岩の浮き方の自然さも、主体の躍動感あるポーズも、うまくハマった会心作。

7.これは「超能力ポケモンの効果」として岩が浮いていることを試した最初期のもの。

8.地中から岩を割り、破片を撒きつつ出現した瞬間・・・。ボディの長いものはこうして一部を切り取れば、その部分を大きなサイズで作れる。限界サイズの決まっているフィギュアシリーズで、大型のポケモンの全身を作ると、相対的にちまちました小スケールのものが出来てしまうため、迫力を出すための一種の「胸像化」という考え方をしている。

9.前回の005的な岩を割って飛び散っているシーンだが、実は浮かせているのは瓦礫(だけ)ではなく、主体のイシツブテである。

◆死角から支える

浮揚術の一回目で魚を例に語った、浮かせる基本(死角で支える)の実践例です。いつも岩で支えるわけではありません。

(クリックで拡大)[1][2]ピカチュウ [3]ミズゴロウ  [4-5]キルリア

1~2. どちらも電撃エフェクト自体で後ろから支え、跳ばしている。同じピカチュウでも、様々なポーズ、表情でいろいろ作れるのが、ヴィネット的な考え方。

3.これはもろに魚で説明した水中浮揚。支える部分をボディではなく、尾にずらすことで、浮いている感を強調している。

4.水面から微妙に浮いている・・・もちろん木から支え棒が伸びている。狭い舞台で、波紋のうかぶ水面、陸上、樹木など情景を入れつつふわりと浮かせた、お気に入りの一品。

前々回でも写真を載せたマナフィとジラーチは、典型的な「背景から支えて浮かせる」パターンです。

(クリックで拡大)[1-2]マナフィ [3]ジラーチ

◆トリッキーな構図

浮かせるというより、飛ぶ様子です。様々な表現がありえます。

(クリックで拡大)[1-3]デオキシス [4]メガラティオス [5]リザードン

1.なぜかデオキシスは、正面限定のポーズをとらせることが多いようだ。2,3を見れば判るように、下半身も作ってはいるが、極端なパースがついている。お気づきの方も多いと思うが、傑作怪獣映画『ガメラ3』で敵怪獣のイリスが京都上空に現れる美しいシーンの再現である(画像検索で「イリス ガメラ 月」で調べるといっぱいでてくる)。ヴィネットならばこういう表現も可能なのだ。

4.雲をまといながらつきやぶって飛ぶ、ポケモン・・・これも宮崎アニメの飛行シーンからの連想かも。

5.ポケモン造形初期に考えた、リザードン。羽で浮かびつつ、吐いた火炎で全身を支える構図は、画期的だと自負している。炎を吐くドラゴンなどのフィギュアは海外にもあると思うが、こういうのは見たことがない。前も書いたように、小サイズのフィギュアで大型のポケモンの全身を入れると、相対的にチマチマしてしまうが、これはどうしてもやってみたかったし成功していると思う。

◆浮揚術まとめ

浮揚術といっても、浮かんで見えるとか飛んで見えるとかの不思議を描くだけではありません。むしろ、それぞれのキャラクターが動いているところ・・・グラビア立ちではない、歩き、走り、アクションしているところを描くためには、死角で支えるという考え方が必須であり、応用範囲は無限にあるのです。

(クリックで拡大)[1]レックウザ [2]メガレックウザ 「浮揚術」として画像を用意していたが、むしろこれらは「ハガネール」で説明した、一種の胸像化ヴィネットの文脈で説明するべきかも。
「拡大術(Close-up Magic)」として別項で解説予定。
メガミュウツーYのスケッチ。これはスケッチ段階で瓦礫の浮かせ方をかなり意識している。
浮揚術1理論編浮揚術2実践編 もよろしく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?