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日本の賃金が国際比較で大幅にダウンした本当の理由について考えてみました


〈目次〉
1.イントロダクション
2. 賃金の減少率よりデフレ率が大きければ実質賃上げになる
3. 為替が貨幣価値を調整
4. 真逆の方向に為替レートが動いた


1.イントロダクション
デフレは賃金ダウンの原因とみなされがちです。しかし、本来、日本がデフレで欧米がインフレでも、為替による調整が行われれば、相対的に日本の賃金は下がらないはずです。

安い日本の主因として「デフレ」を上げる人が多いです。日本では長引くデフレ下で給与が上がらず、その結果、インフレ率+αで賃上げを続ける諸外国との差が広がっていたという説明がなされます。

但し、詳細に調べてみると、このことが「国際的に見て賃金が下がった理由」としては正しくないと思われる節があります。  

2.賃金の減少率よりデフレ率が大きければ実質賃上げになる
デフレは、物価が値下がりし、賃金の価値が上がる現象とも言えます。

今までバナナ1本が100円だったのが、80円に値下がりした。このような状態がデフレです。

分かりやすい例として、1時間お母さんのお手伝いをしてお小遣い100円もらっていた子供がいたとします。今までは1時間働いてバナナを1本買うと、お駄賃は消えてしまいました。

ところが、デフレが進むと、バナナを1本買っても20円おつりがもらえます。

この20円は貯金もできますし、駄菓子を買うこともできます。このことは相対的に「お小遣いが上がった」状態になります。

整理すれば、賃金が上がらない、もしくは下がったとしても、デフレ率がそれより大きければ、実質として、賃上げに相当し、生活は豊かになっていきます。

日本はこんな状況が長らく続きました。賃金は上がらない、もしくは下がる。ただし、物価はそれ以上に下がる。それを示したのが、下の図となりります。

2000年以降はおおむね、累積賃金が累積物価を上回る状態が続き、生活は豊かになっているのが分かると思います。

2014年と2018~2019年に両者が接近しているが、これは消費税アップ(これも物価指数に反映される)によるものです。こうした公的負担の増加」を含めても、日本の生活は豊かになっていると言えるでしょう。


3.為替が貨幣価値を調整
一方、欧米諸国はこの逆で「賃金は上がるが、同様に物価も上がる」ために生活は思うほどよくなってはいません。4カ国は物価が3~5割も上がっているからです。

先ほどの例でいえば、1本1ドルだったバナナが、1ドル50セントに値上がりした状態であれば、お小遣いが1ドルから1ドル20セントに上がったとしても、決して得にはなっていないということです。

ただ一見すると、日本の子供はお小遣いが90円に下がり、アメリカの子供は1ドル20セントに上がっていたら、損しているように感じてしまうでしょう。この状態を調整するよい仕組みがあります。それが為替です。

日本はデフレ(=貨幣価値が上がる)で、アメリカがインフレ(=貨幣価値が下がる)であれば、貨幣価値が強くなった円が強くなり、ドルは逆に弱くなります。

つまり、円高・ドル安となり、これで調整されるために、通貨換算した時の賃金比較は「元の状態のまま」になるはずです。

もし、他国がインフレで、日本だけデフレであれば、当然、為替では円高となり、通貨換算後の賃金は、低下することはありません。つまり、国際社会で日本の賃金が下がった主因をデフレとみなすのは、疑問に思います。


4.真逆の方向に為替レートが動いた
それでは、日本の賃金が国際比較で大幅にダウンした理由はなぜでしょうか?

その理由は、正常な為替調整が行われなかったことだと思われます。つまり、真逆に円安が進行したことにあります。原因はさておき、下記は日米の消費者物価上昇率とその乖離の状況を示したものです。

出所: IMF

上記グラフのグレーの棒グラフに沿えば、プラスになったときは円高、マイナスでは円安になります。

2012年の為替レートを1ドル=80円とした場合、GAPに従って推移するならドル円レートは以下のようになっていたはずです。

GAPに沿ったドル円レート
1ドルのレート
2013年 79.1円
2014年 80.0円
2015年 80.6円
2016年 79.5円
2017年 78.2円
2018年 77.1円
2019年 76.0円
2020年 75.1円

ところが、現実は大幅な円安で、調整とは真逆の方向に為替レートが動きました。その結果、日本の一人当たりGDPや平均賃金が、世界の中でどんどん順位を下げていきました。

為替レートで大きく変化する、各種「国際比較順位」に一喜一憂するのは、あまり好ましくないと個人的には思います。

なお、2021年にイギリスはGDPも賃金も「ドル換算数値」では15%近く伸ばしました。

イギリスは、コロナの影響を最も大きく受けた国の一つでもあり、生活は苦しくなりました。それにもにもかかわらず、見かけ上の経済数字は大幅に伸びています。

なにか妙だな。。と個人的には思っています。


以上



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