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愛の葬列、或いはその続き

10月
大好きなミュージシャンが亡くなった。
取引先の事業引き揚げが決まり、収入源がひとつなくなることになった。
やるべきことが終わらなかった。

11月
ダラダラと長居していた夏がようやく重い腰を上げた。
寒さが深まるごとに朝の目覚めが鈍重になっていった。
ライターのアルバイトを見つけたのでためしに応募したら、採用された。
10月に終わらせるはずだったことは、まだ終わっていない。


いきなりだが、バイトが決まってしまった。
来春までは様子を見ようと思っていたのだけど、元々興味のある分野での募集だったのでどうしても見逃せず、勢いで応募してしまった。
冬季は薄暮の時間帯になってようやく頭が冴えるような身体で、はたして真っ当に働けるのか。不安は尽きない。
早まったかもしれないという気持ちもあるが、その分野について勉強して書いてみたいと思ったのも事実だ。
フルタイムだが勤務日数は調整が可能なので、なんとか無理せず働けるんじゃないだろうか。

ことが始まる前から心配したくてしょうがないネガティブな自分を宥めるために、仕事のメモを取るために新しいノートを買い、研修の日時を決め、髪形自由な職場だしいっそブリーチでもしてやべえ色に染めてみようかな、などと埒もないことを考えて気を紛らわしている。

久しぶりに真っ当な職場での勤めである。動きやすい私服で通勤することになるので、日々なにを着るかも楽しみだったりする。
脱ぐための服じゃなくていいし、見せるための下着じゃなくていいのだ。
ジーンズの下にタイツを履いてもいいし、ベージュの7分袖インナーを着てもいいのだ。オーバーサイズの襟シャツの下に黒いTシャツを着て、袖を折り曲げてたっていいのだ。
だって服装で男の性欲をそそってやる必要も、脱いで裸を見せてやる必要もないんだから。
わたしは商品として出勤するんじゃないんだ。それが嬉しい。

それにしても、もう11月も後半だなんて、ちょっと信じられない。
バイトが始まるのはもう少し先なので、それまで体調管理を徹底して、請求書作成と、次の取引先候補との折衝面談と、10月のやり残しを終わらせてしまいたい。

正直なところ、冬はずーっと寝ていたい。
毎年毎年寒くなるごとに頭も身体も動きが鈍くなる。夏の間の元気さと落差があからさまで、自分のことながら毎年新鮮に落胆してしまう。
いい加減自分の生態を受け容れて、低出力なことにいちいちガッカリしないで暮らせたらいいのに。
ここでもずいぶん前に書いたけど、冬の理想の過ごし方は冬眠。冬の低出力な時期はグーグー寝て過ごし、暖かくなったら巣穴から出て活動するのだ。
ああ、リスやクマが羨ましい。
とはいえリスやクマのようには暮らせないので、朝の太陽を浴びて、きちんと着込んで防寒し、温かいものを食べ、暖かい部屋で過ごそうと思う。
約束したことはきちんとやって、そして新しいことを始めるのだ。


今年もいつもと同じ冬だ。
去年よりもひとつ年を重ねた冬。
去年と同じように低出力で眠い冬。

大好きなひとが逝ってしまった冬。

去年よりも自分を許せるようになった冬だ。
去年と同じでもあり、同時に全然違う。


またボチボチ更新していくのでよろしく。
では。

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