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うんこをもらした話 〜ニューヨーク回想記③〜

この話は下品な表現を多分に含んでおりますので、ご了承の上お読みください。

1度目〜マンハッタンの中心で叫ぶ

2020年1月15日。雪降る極寒のマンハッタン、その中心であるところのミッドタウンを私は歩いていた。多分、BOSEのヘッドホンを買おうと思って店に向かう途中の寄り道だったと思う。

最初はなんともなかった。私はいつもそうだ。外を出歩き始めたばかりのときにはそんなことになるなんて予想もさせないほどに快調かつ快腸。寒さに怯むこともなく都市をズンズン歩き進んでいた。

ほどなくして。氷点下を超える冷たい空気に当てられて、私のお腹はキュッとなった。あっこれは……と怪しい気配を感じたなら、もう手遅れである。

決壊したダムのごとく凄まじい勢いで猛烈な便意が肛門に向けて腸内を駆け巡る。これが、もよおし。わずか数秒の間に私は身体的にも社会的にも危機的な状況に陥った。

太ももの付け根から足の指先までが一直線にピンと伸び、ブルブルと痙攣する。不自然極まりない姿勢だけど、そうして尻を引き締めなければ大変なことになってしまう。

じっとしているわけにもいかないので震えながら一歩ずつ踏み出すも、行くあてはなかった。なにしろニューヨークにはマジでトイレが少ないのだ。

それから2〜3分後、私の括約筋はあえなく白旗を上げる。もれた。

「あっ、ああ〜……」

情けなくて半泣きで空を仰いだら、大きな看板が目に入った。「Macy's」。これはアメリカで大変有名な、日本で言えば高島屋とか、そんな感じのデパートだ。そしてここにはトイレがあるというのを、以前ネットで見たことがあった。

不自然な姿勢のままMacy'sに入り、トイレ階を目指す。7階。遠い。

もれた汚物がスウェットパンツの裏地(起毛で暖かい)についたっぽくて、それが脚に当たるのがめちゃくちゃ気持ち悪い。そして、つま先立ちで痙攣しながらエスカレーターで立っている私の姿もかなり気持ち悪かったと思う。

このMacy'sのエスカレーター、なんと開店した1902年から未だに現役で稼働しているのだという。いい具合にヴィンテージの風合いが滲み出た木製の佇まい、カタカタと鳴る独特の音から感じる1世紀以上の歴史に思いを馳せる。もし私がうんこを漏らしていなければ、そうしていたに違いない。

幸いにしてスウェットパンツは裾がリブで絞られていたため汚物がこぼれ落ちることはなく、この貴重な文化財を穢す心配はないというのが救いであった。

7階に着きトイレに直行。ケツ、脚、裏地などを拭いたり水で洗ったりして、その日はもう切り上げて帰宅した。

2度目〜メキシカンのレストランで叫ぶ

2度目。そう、私は2回、もらしたのです。

2020年1月30日。前回から2週間しか経ってない。

その日は珍しく、語学学校に遅刻せずに着きそうだった。早起きが苦手で遅刻が常だったけど、たまたま寝覚めが良くてシャキシャキと行動、気分も大変良かった。

クイーンズからマンハッタンへ、地下鉄7番線に乗って30分ほど揺られる。

気温は低いが、すっきり晴れてパキッとした青空が美しかった。

1度目のときと同じ。なんともなかった。私の心身はこの澄み渡る青空のように快活であった。

数分後。

私は車内で腹を押さえて悶絶していた。突如の腹痛に襲われ、もらさないよう耐え忍んでいた。

このままでは大変なことになる。危険を予知して途中下車。

しかし下車したところで解決はしない。ニューヨークは主要駅を除いてトイレがないからだ。

とにかく外に出なければならない。改札を抜けて階段を降りようとした瞬間、私の尊厳は粉々に砕け散る。もれた。

「あっ、あっ……」

時刻は朝8時。周りを見渡すと、横断歩道を渡って100mくらい先にスタバが見える。もらした状態で歩いてあそこまで行くのはキツい。もっと近くにないかと探すと、目の前にメキシカンダイナーがあった。

メキシカンダイナーといっても洒落たものではない。私が降りた駅はヒスパニック系が多く住むエリアで、彼らが日常的に使う店、日本で言えばナントカ食堂みたいなローカル感溢れる風情だった。

しかし私にとっては大海に浮かぶ一本の藁。ただちに駆け込み、トイレを貸してくれと頼む。しかしカウンターのオバちゃんは全力でシカト。

もう一度懇願すると、目とアゴで「あっち」と合図される。くぅ〜愛想悪い。

しかしまあ、これで救われた。すぐさまトイレに向かうと、なんと鍵がかかっている。再度オバちゃんに「鍵かかってるよ」と言うと「知ってるわ!」と初めて口をきいてくれた。しかし「知ってるわ!」とは。知ってるけど、何もしてくれない。それでは困るのでしつこく食い下がると、めちゃくちゃ嫌そうに鍵を貸してくれた。

いろいろとつらい。しかしこれで救われると思って鍵を開けた。そして残りの用を足す。つらさが徐々に消え失せていき、背負った罪のような重みが次第に軽くなっていくのを感じる。

次はケツや汚れた下着、裏地、脚を拭かなければ……。瞬間、目を疑った。トイレットペーパーがないのだ。

トイレ内、どれだけ探してもない。ストックもない。四面楚歌。どうすることもできない。

私は崖から飛び降りる思いでズボンを上げ、トイレから飛び出してさっきのオバちゃんに「ペーパーがない!」と訴えた。

するとオバちゃんもついに怒りがピークに到達し「知ってるわ! お前みたいなのが来るから置いてないんだよ!」と猛烈な勢いで怒鳴り返されてしまった。そ、そんなあ〜。

しかしもはやオバちゃんと争えるほどの尊厳は残ってなかった。汚物がズボンになるべくつかないようにズリ足で店を出て、最初に見えたスタバに向かうことにした。結局スタバで紙にありつけ、汚れたケツや太もも、ズボンの裏地を拭き取り、水で洗った。

「もう今日は、帰ろう……」

せっかく遅刻せずに行けたはずの学校に、もはや行く気はしなかった。シャワーを浴びて、服をちゃんと洗濯したかった。

トボトボと駅に戻ると、なんと改札脇にトイレがあるのを発見した。ホント、膝から崩れ落ちそうになった。

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