最高の作品

『思い出補正』という言葉は、いずれ広辞苑には載るんだろうか。流石に、それはないだろうか。類似した言葉で『懐古厨』というのもある。
大概人気のシリーズものでそういう現場を垣間見る。AKBは初代神セブンがいた頃が最高だとか、平成ライダーはシリアスなオダギリジョーのクウガがよかったとか、そういうのである。

私の思春期時代、男子女子問わず人気を博していた作品の一つが『鋼の錬金術師』だ。女子校だったけれど、漫画を好んで読むグループにとってはもはや必読作品の一つだったように思う。
だけどなぜか私はこの作品、ハガレンを結局オンタイムで見ることは一度もなかった。食わず嫌いというより、「みんながこんなにもう熱をあげているのに今更追いつけない」みたいな尻込みする気持ちがあったように思う。
今の私だったら、「自分が読みたいと思ったら、読めばいいじゃん、見ればいいじゃん」と思うのだろうが、そういえば当時は追っかけ配信もなくテレビで生で見るか録画するかの二択で、そのテレビも父が主権を握っていたので「見たい」となかなか言い出せなかったんだった、と思い出した。(父はいつだって、なんの根拠もなく『今の』漫画やアニメを目の敵にしていた)

大学生になってから、ハガレンの漫画を完全版で大人買いした。夢中になって読んだが、「なんか、みんなが言っていたほどの衝撃を感じないなぁ…」と首を傾げた。間違いなく面白くて良く作り込まれた作品だとは思ったが、何かが違う。女子先輩の一人に「漫画の方の話は、ねぇ」と見下げるような言い方までされたが、ストーリーそのものに対する不満は正直あまり感じなかった。もっと、別の何か、それが足りない。

当初私は、「青春時代に見なかったからだろう」と推測した。多感だと言われる思春期に読むからこそ、心にダイレクトに響いて、一生残らない作品として胸の中に残るのだ、と。つまり、『思い出補正』が私に足りないのだと。
大人になっていろんな角度である意味俯瞰して見れるようになると感動もできなくなってしまうのだ…と内心、がっかりしてしまった。やっぱり、あの頃に見ないと意味がなかったんだ、もうみんなと同じ感覚を持つことは私にできない。そう思っていた。

ところが最近、昔のような気持ちで追いかけて見続けた作品があった。
『ダーリン・イン・ザ・フランキス』という深夜アニメだ。
その時間にテレビを何気なしに一人で見ていたら偶然第二話が放送していて、「あ、なんだか面白そう。というかこのピンクの髪の女の子超可愛いんですけれど」となんとなく追いかけ始めたのがきっかけだった。
ロボットアニメかと思って見ていたのだが中身はコテコテの恋愛ドラマ系だった(ジャンル分けには疎いのでその辺りは悪しからず)。主人公とヒロイン(そのピンク髪の女の子)のすれ違いでその日の回が終わってしまった時など毎度「くぅーっ」と胸がざわついた。早く来週にならないかしら。続きがきになる。(最終回前数話は、だいぶびっくりしてしまったけれど)

そしてそこで思い出す。ああ、昔ウルトラマンを見ていた時も、デジモンを見ていた時も、こういう思いを毎回していた。「あーー早く来週!来週が遠いよぉ!」とじたばたしたこと。その来週が来るまでの間、いろんな想像をしたこと。主人公がこういうんじゃないか、こういう展開になるんじゃないか、こうなったらいいな、…通学路を一人で歩く時も毎朝、「あれ、どうなるかな、まだ水曜日。長いなぁ…」と一人空想しながら歩いていた。

つまり、その作品に対する愛着は、見ていない時間も含め共有していた時間の長さだったんだなとその時初めて気づいた。私がハガレンの漫画に首を傾げたのは、一気読みしてしまったからだ。エピソードが佳境に差し掛かったところでページが終わり、『つづく』の三文字を見て「ああ終わっちゃったー!」というあの感情、そして新しい巻をまつ数ヶ月。それがないから、あっさりした読後感だったのだ。

良い作品というのは、褪せない。何年経ってもその作品愛されるのは、時間が経過しても風化しない魅力があるからに他ならない。けれど、過去の作品というのはどうしても遡って鑑賞しようとするとある程度まとめて、比較的短期間で見てしまうことが多い。共有した時間が、オンタイムで見た人たちより圧倒的に薄い。だから、シリーズ物では「自分が子供の頃見ていた〇〇がなんだかんだ言って最高だったよ」となってしまうんじゃないだろうか。
自分が子供時代に見たものを大切にするのは、素晴らしいことだ。(私もその一人である) けれど、それにしがみついて今の作品を「〇〇の方が面白かった」「これXXのパクリじゃないの」と色眼鏡で見ないようにしたい。
いつだって、子供の頃のような、まっさらな気持ちで、作品を楽しめたらいいと思う。

アマゾンプライムビデオでハガレンのアニメが全話視聴できるので、最近初代作品の視聴を始めた。一気にではなく、多くても3話ずつくらいで。
漫画で読んだときは「ああ、あの有名なシーンね」とあっさり読み進めてしまったエピソードが、今日は「ああぁ・・・ニーナぁ・・・」とずっしり心にきた。

漫画とは違うストーリー展開だそうなので、続きが楽しみに、少しずつ見ていこう。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!