粗の収穫期~J2第40節 モンテディオ山形 VS ファジアーノ岡山~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

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新しい組み合わせの妄想

 琉球戦から1週間空いたこの山形戦は、次の試合への準備をする余裕が多少生まれた試合。そして有馬監督の来季続投が正式に決まっての最初の試合である。このタイミングで有馬監督は、CBの2枚に濱田を外して田中と阿部を起用、上田・パウリーニョ・白井を中盤で同時に起用、そして左SHがメインだった上門を中央の前線ポジションに起用し、イヨンジェや清水をベンチからも外してきた。イヨンジェに関しては何かしらのアクシデントによるものなのかもしれないが、この岡山のスタメンを見たときに最初に感じたのは、上記の3つから「有馬監督はボールを持つことにトライしていきたいんだな」ということだった。

 このメンバーだと、まずは岡山がボールを持つときは、ボールを持たないときには4-4-2の第一ラインの2枚、この試合ではヴィニシウスアラウージョと前川から積極的に縦へのプレッシャーをかけてくるであろう山形に対して、田中と阿部のCBとパウリーニョと上田のCHで最後尾のポープを加えてボールを保持したかったのではないだろうかか。岡山の後方でのボール保持に対して山形のCHの中村と南がそれを咎めに行くと、岡山はSHの白井が列を下りることで山形のプレッシャーを牽制。そこから横幅を取る徳元や椋原への展開だったり、山形の最終ラインの背後を狙いに行く山本や斎藤への展開だったりを使って山形の最終ラインと中盤のライン間のスペースを広げたところで、中央で山本の周囲を衛星的にポジショニングする上門にボールを入れて前を向かせる形を増やしていきたかったとのかな、と考えていた。

 また、岡山がボールを持たないときには、最後尾の藤嶋、CBの半田と野田、CHの中村か南のどちらか1枚の4枚で菱形を形成して運んでいこうとする山形のビルドアップに対して、4-4-2のオリジナルフォーメーションから斎藤が列を上げての山本-上門-斎藤の第一ライン3枚にすることと、中盤のパウリーニョ、上田のどちらかが列を上げてことで山形の菱形との噛み合わせを狙い、それによって山形のボール保持を阻害しようとしていたのではないだろうか。白井が中盤にスライドしていれば、運動量を使って広範囲をカバーでき、山形がプレッシャーを剥がしきれない状態で無理やりヴィニシウスや前川への縦パスを打ち込もうとしてくれば、積極的に縦パスを潰しに行く阿部が対応するということを考えていたのだろうと思う。

 なおここまでの文章はこのメンバーを見たときに、有馬監督は山形相手にこういう形、展開を出したかったのかな、そして来季に向けて目指していきたいものなのかなといろいろ考えた机上論である。しかし、出したかったけど出せなかったのか、そもそも出そうとしていなかったのか、前者か後者かは分からないが、実際の岡山を見るとピッチ上で(特にボールを持ったとき)こういう形はほとんど見られていなかった。

メッキが剥がれつつあるSH斎藤。え?上門がターゲット?

 ここからは、上門が前線のポジションにいた前半の話がメイン。最後尾のポープにまで詰めに行く、第一ラインを中心とした山形の縦へのプレッシャーに対してボールを持ったときの岡山は、CB-CH間の4枚でボールを落ち着かせることができていなかった。田中と阿部で山形の第一ラインのプレッシャーを剥がすことができない状態でパウリーニョや上田がボールを引き取ろうとすると、そこに中村や南が寄せることで中盤でボールを落ち着かせないようにする。徳元や椋原がサイドの低い位置でボールを受けようとすれば、SHの渡邊や加藤が素早く寄せに行く。その結果、ボールを持ったときの岡山の選択は、プレッシャーがかかっていない状態でも決め打ちのようにダイレクトなロングボールを蹴るようになっていった。

 ここでもう一度思い出してほしいことがある。この試合の前線は、山本と上門である。岡山がボールを持てずに(というより持たずに)ダイレクトな展開が増えるとして、普段通り山本が山形の最終ラインの背後に仕掛けるオフボールの動きを繰り返すとして、山形の最終ラインと直接アバウトなボールに対して競り合うのは誰になるのか。そう、上門である。上門がアバウトなボールのターゲットになって相手を背負って収めることはできないし、山本がターゲットになったときも、半田や野田に抑えられてしまっていた。スタメンの中で相手と競り勝てる、ボールを収められるとしたら斎藤なのだが、右SHに起用されている斎藤は椋原やCBからのボールを受けようとして山形のプレッシャーに捕まってしまい、本来やりたかったはずの相手の最終ラインに仕掛けるプレーがほとんどできず。逆に左の白井が何度も飛び出そうとして上下動を繰り返していた。このように特に前半、ボールを持っていたときの岡山は役割があべこべになっていた感は否めなかった。

 第一ラインの2枚からCH、SBまで縦横にコンパクトにかけてくる山形のプレッシャーを受けてしまったことで岡山の後方の選手たちはボールを落ち着かせられず、前方の選手たちはただでさえアバウトなボールなのに、配置と役割があべこべな状態ではボールを収めることができていなかった。そうなってしまうと後ろと前の距離が必要以上に間延びしてしまうので、ボールを失ったときに連動してプレッシャーをかけに行くことができずに相手ボールホルダーに単独で突っ込んで逆に元々いたスペースを山形に使われるということが頻発していた。ヴィニシウスが決めた山形の2得点目は、良い形に見えた岡山の右サイドの攻撃でカウンターを受けた形なのだが、間延びした状態でパウリーニョが単独で突っ込んだことで山形のカウンターのスイッチになってしまったところから生まれた得点であった。低い位置で斎藤が受けても、ターンできずに結局椋原がクロスを上げる形にならざるを得ないのであれば、SHに斎藤を配置する意味が無い気がするのだが。

配置を戻したから良いわけではない

 その後の展開も流石に上手く行かな過ぎたということで、岡山は前半の終わり間際、40分あたりから上門が左SH、斎藤が前線、白井が右SHに入るという、いつも通りの配置に戻すことになった。後半になって山形が第一ラインからのプレッシャーを控えて、4-4-2のブロックを敷いて様子見に転じた立ち上がり10分ほどの時間帯では、岡山はCB-CH間である程度ボールを落ち着かせることができるようになり、前線のターゲットとなる斎藤や山形の最終ラインの背後を狙う山本への展開、左サイドにポジショニングする上門に展開してそこからカットインを仕掛けるなど、ボールを持ったときの見栄えはどうしようもなかった前半よりは改善された、ように見えた。

 しかし様子見が終わった山形が前半と違って、第一ラインから高い位置まで追うのではなくミドルゾーンでのプレッシャーを強めるやり方に変更すると、岡山は再び中盤でボールを落ち着かせることができなくなってしまった。本来ミドルゾーン中央のエリアでボールを落ち着かせて展開したいはずの上田とパウリーニョがボールタッチのミスだったりパスミスだったりを連発してしまっており、ボールを持っても自分たちでコントロールできずに結局山形にボールを渡す形になってしまっていた。

 90分通じて特に目に付いたのは、岡山のボールホルダー(⇒パスを受ける選手)が、山形の選手にまだそこまで近くまで寄せられていない段階から相手の寄せに警戒する、というか慌てるような挙動が見られていたこと。慌てたようなボールタッチでは当然次のプレーにスムーズに移行することなどできるはずもない。この試合のDAZNの解説者は岡山の攻撃に対して、「ボールを持ったときのフォローが少ない」ことを再三指摘していた。それはもっともな話で、ボールを持ってもコントロールできずにすぐに失ってしまっては、フォローに向かう時間もポジションを取り直すタイミングも作れるはずがないのである。後半になってもボールを持って上手く攻撃できなかったのは、慣れない配置のせいではなく、とどのつまりは(最近の記事でずっと書いている気がするが)チームレベルでも、それ以前に個人レベルでも自分たちのボールをコントロールする技量の問題なんだろう、という結論に行き着くことになる。

前から行くのは良い、でも担保はどうするの?

 前半の岡山は山形の菱形のビルドアップ(⇒藤嶋+半田-野田のCB2枚+中村or南のCH1枚によるビルドアップ)に対して、第一ラインの山本と上門の2枚で追いかけるのを早々に止めた結果、山形がサイドに展開したときの中盤以降のプレッシャーをかけられなくなり、特に右SBの山田のフィードで何回も岡山の最終ラインの背後を狙われていた。そこで岡山は後半になって、CHの上田とパウリーニョがどんどん縦に食い付くようにして、無理やり中盤からのプレッシャーを強めるようになった。山形に中央を経由させずにサイドに展開させ、SHとSBの縦スライドでサイドに追い込んでいきたい狙い自体は良く分かる。

 しかしここで問題だったのは、CHが縦に食い付くのは良いが、それ以前に山形のビルドアップ隊は岡山の第一ラインからのプレッシャーに対してストレスを感じていたのか、ということ。山本と斎藤がプレッシャーに行ききれなかったことで、山形の選手は見た目ほどはストレスなく、ある程度の余裕をもってボールを動かすことができていた。前から追い込みきれない状態で中盤が無理やり縦に詰めに出るので、結果として相手に与えてはいけないはずの中盤と最終ラインの間のスペースを山形に与えてしまうことになっていた。山形は菱形を意識したボール保持で後方を安定させ、ボールサイドでのオーバーロードでプレッシャーを交わし、そこから内側にポジショニングする選手に縦方向、斜め方向へのパスを入れることでボールをグループで前進させていった。そういうボールを動かすパターンがしっかりと確立された相手だと、この試合のように中盤のフィルターが全くかからない展開になると非常に厳しくなる。それでも後半はなんとか無失点で凌げた岡山。その要因は、後半から阿部に代わって入った濱田の対人での強さと細かなライン調整、そして再三に渡る山形のシュートミスに他ならない。

それは運動量の問題なのか

 衝撃的なスコアで大敗した長崎戦以降、岡山の試合内容は時間帯によっては良いときもあるが、基本的には良くない試合がずっと続いている。そして件の試合を先頭に岡山は8試合勝利がない。最初は長崎戦のショックが残っているのか、とも思ったのだが、根本的にボールだったり局面で起こっている現象に対する反応速度、つまりは運動量が落ちているのではないかという疑問を持った。これは自分たちがボールを持っているとき、持っていないときに関わらずである。例えば、良かったときの試合なら「ダイレクトな展開を入れる→そのセカンドボールに対して単独ではなくグループでプレッシャーに行ける」ような展開でも、ボールの周辺に出遅れる、そもそも競り合いの準備ができていない、というような場面が目立っているということである。

 自分たちがボールを持ったときの振る舞いとして、これまでなら多少ボールタッチがブレたりパスがズレたりしてもそのあとのリカバーでなんとか繋げることができていたが、ここ数戦顕著になっている運動量の低下、リアクションが遅れるようになったことで純粋に個人レベルでの技量の問題がより強く浮かび上がってしまっている。また、相手がボールを持ったときにプレッシャーに行くときでも、それまでなら縦横のスライドを間に合わせて中盤でのフィルターを作れていた展開が、この試合のように戻りが出遅れてスライドが間に合わず、空けてはいけないスペースを相手に渡してしまうという場面が目立っている。

 ここ数戦の内容と結果の低迷はとどのつまり、これまでの連戦を、決して厚くない選手層の中で戦ってきたことによる運動量の低下なのか。ピッチ上での現象からしてみたらそうだと言える。しかし、運動量の低下によって如実にあぶり出されたのは、ボールを持ったときに自分たちでボールをコントロールできなくなる個人のスキル、チームとしてのビルドアップの精度の粗である。そして高い位置でプレッシャーに行ったら中盤のフィルターを組織できなくなって最終ラインが頻繁に晒されてしまう4-4-2の錬度の粗である。運動量が落ちたから勝てなくなりました、今季は難しいシーズンでいろいろ噛み合いませんでした、で総括してしまっては来季以降同じことが繰り返されても決して不思議ではないと思う。

 あらゆる局面においてしっかりと組織的に整備されていた山形は、この連戦の最終局面、間違いなく運動量的には厳しいところがあるが、それでも如実にチームとして粗が出ることなく試合を進めることができていたのである。個人レベルの差を含めたチームとして見られる確かな差を来季どう埋めるのか。この完敗を良い機会にしたいところである。

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